とある公安所属の女 2018-07-20 22:31:27 |
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彼の独り言のように繰り返された仮眠室、という言葉に1つ頷いた。様子から見て相当疲れがきているのだろう。体を鍛えていても、それでも年の瀬には敵わない。彼も自分も。体の怠さといい、迫り来る睡魔といい…仕事が終わるとこれだ。しょぼしょぼとコンタクトの渇きに加え、気が抜けたのか睡魔が襲いくる。あと少し、もう少しで帰れるから耐えるんだ自分…!!
彼の、そうするという言葉でほっと気が抜ける感覚に陥る。彼を寝かせるのが、安眠を確保させるのが風見か自分、または全員の課題である。帰りにコンビニ寄って栄養ドリンク買っていかないとなぁ、とぼんやり考えつつ、お先ですと背を向けようとすれば同時に鳴り響いた2つの電話の音に肩が揺れる。振り返れば、申し訳なさそうな彼の顔と少し早口で伝えられたお願い。聞かないわけにもいかず、もう1つの電話に出た。
「はい、橘です。…はい、はい、…分かりました。10時、ですね。かしこまりました。伝えさせていただきます」
所謂裏理事会、と呼ばれる彼が所属する部署のお偉いさんからの電話だった。そっと受話器を置けば彼は未だ通話をしているのだろうか。そっと様子を伺うように彼の方へと視線を向けた
彼女の確かめるような返答に頷き1つ返した。彼女が色々な幹部から気に入られているのはわかっている。あの人にも、ラムにも気に入られるほどだ。それに関して何か言うつもりもないし言えるような立場ではない。しかし、いろいろな日常雑貨や仕事で必要なもの、家具も組織から支給されているだろう。普段世話になっているにもかかわらず何も出来ないのは少しばかりもやつく。
作業をしながら少し悩ましげに言葉を零した彼女に無いなら構わない、と付け足した。要らないという奴に何かを押し付けるほど強引でもなければガキでも無い。元々の境遇が境遇だからか、あの子物欲がないのよねぇ、とどこか寂しげにぼやいていたベルモットの言葉を思い出した。自分がそもそも物欲が強いわけではないため、無理に言わせるつもりもなかった。ただ、何かしらしてやりたい、というなんとも判別しきれない感情ゆえの行動だった。ベルモットやキャンティなど女幹部には敵わないかもしれないが。
悪戯っぽく笑う彼女の口から告げられた言葉に暫し目を見開いたが少し馬鹿にするように爆笑した。ハハハハッ、と。一人きり笑えば、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「…まぁ、気が向いたら手配しといてやる」
柄にもなく、無意識に薄っすらと笑みを浮かべた
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