とある公安所属の女 2018-07-20 22:31:27 |
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この酷い頭痛を緩和してくれるような声が聞こえた気がして、ほぼ閉じかけていた瞼を上げ目を開く。目に映る彼女の姿は幻覚かとも疑ってしまう。こうして真っ直ぐに目を合わせてくれたのはいつぶりだろうか。
ああ駄目だ、こんな風に頭がぼんやりした状態では、何か言ってはいけない事まで口走ってしまいそうだ。手を伸ばせば届く距離に彼女がいる事自体夢ではないかと脳が錯覚し始めている。これは不味い。いやそもそも、彼女の前でこんな無様な姿は見せたくなかったのだが、仕事柄それを避けるのは難しい。
「いや……大丈夫だ。橘も早く帰るといい……人出がないとはいえ、無理させて悪かったな」
時間の感覚が狂い始めているが、彼女も徹夜明けのはずだ。先程彼女が立ち上がった時に聞こえた不穏な音は、聞き間違いではないだろう。
「ああ…いつものベレッタね」
空中を舞い落ちてくる銃を片手で掴み取る。他の銃のようなずっしりとした重みはなく、とても軽い。どの銃もとても美しいが、このベレッタのレトロなデザインは特にお気に入りだ。
親指で銃身をそっと撫で、片手でライトの明かりを引き寄せる。目を細め真剣に細かい部分まで光に照らして見ていく。ぐらついている部分はないか、少しでも錆びてはいないか……。
「どこにも変わったところはないわね。これなら軽い手入れだけで済むわ。しばらく待っていてくれれば終わるけど、どうする?」
よく眺めた後に詰めていた息を吐いて、肩越しに相手を振り返って尋ねた。
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