とある公安所属の女 2018-07-20 22:31:27 |
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部下がぞろぞろと帰っていく中、三十路1歩手前の体は長時間のデスクワークに悲鳴をあげていた。肩はバキバキ、腰もメキメキだろう。唯一の楽しみは月イチであるかないかの休日に録り溜めた月9を見て酒を飲んで寝る。そんな寂しい人生だ。結婚願望も、恋人願望も捨てた。まだ、捨てられずに持ち続けているのは、彼への腐り果てていても可笑しくない恋心だけ
すっかり居なくなった部下たちに続き自分も帰ろうかと椅子に腰掛けたまま髪を解きつつ無意識に彼のデスクへと目を向けていた。帰っているならそれで安心だし、帰っていないなら帰るよう促すためだ
「…え、ちょ、…降谷さん?」
崩れるように椅子へと背もたれに凭れている彼に思わず目を見開き、あとは条件反射に近い。急に立ち上がった為か、腰は痛いし凄まじい音が鳴ったがお構い無しにデスクへと駆け寄り、大丈夫ですか?と恐る恐る声をかけた
彼女の少し驚きを含んだような声に少し馬鹿にしたような笑い声が零れる。不意に見えた彼女の顔が緩んだように見えたが、別に何を言う訳でもなく、カツカツと靴を鳴らし近くの1人がけのソファーへと腰を下ろした。僅かに聞こえるテノール歌手の歌声が室内を支配する
彼女の言葉に耳を傾け、まるでベルモットのような物言いに思わず眉間に皺が寄ったのは言うまでもない。ベルモットに特別恨みや感情がある訳では無い。しかし、彼女の口からベルモットのような言葉や言い回しが出るのが好きではない。ただ、それだけだ。少しの苛立ちを抱えつつ、口を開いた。
「そんな訳ないだろ。…今日は、コイツを見てもらいたくてな」
ポケットから取り出し、彼女の方へとベレッタM1934を放り投げた。拳銃なら必ずしも受け止めるだろう、という自分でも理解できない信用の元だ。別に、落としたところで壊れやしないし怒るつもりも無い。一連の言動の理由はコイツだから、の一言で完結させられるほどに曖昧なものだった
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