とある公安所属の女 2018-07-20 22:31:27 |
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終わった、と部下の誰かが生気のない声で呟くのを聴きながら、自分も手を伸ばしてPCをシャットダウンさせる。時計を見れば四時五十分だ。
「皆、ご苦労だったな……全員タクシー呼んで帰れ。経費で落とす」
死んだ目で机の上を片付けている部下達にひらりと手を振ったのを最後に、自分も疲れ果ててぐったりと椅子の背もたれに崩れ落ちた。
視界がゆらゆらと揺れる。頭の痛みは釘からドリルに昇格し、そのくせ少しでも気を抜くと眠り込みそうになる。こんな状態でこの時間まで持ったのは栄養ドリンクのなせる技か、それともそれを渡してきた相手が原因か。ぐるぐる回る頭でそんなことを考えながら、ぼんやりと彼女のデスクに視線を向けた。
「あら、ジンなの」
地を這うような低い声に銃から顔を上げ、入ってきた相手を見てやや頰を緩ませる。絨毯のことについて注意したのに全く気にかけない様子を見るも、ジンならば仕方ないとなんとなく横目で流してしまう。彼を恐れているからではなくて、どちらかといえば彼を甘やかしているような心持だ。銃に指紋がつかないよう着けていた黒手袋を外し、蓄音機の音量を少し下げた。
「今日はどうしたの?もしかして飲みにでも誘ってくれるのかしら」
こんな冗談を言うようになったのもベルモットの影響だろうかと考えながら揶揄うように尋ねる。お堅い彼のことだ、勿論用事は銃の事でしかないのだろうけど、そんな彼こそ揶揄いたくなってしまう。
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