牙は深淵に堕つ、≪〆≫

牙は深淵に堕つ、≪〆≫

吸血鬼  2018-06-27 00:10:52 
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森を訪れたとある青年は、狼に襲われ、逃げ込むように古びた屋敷へ足を踏み入れた。

しかしそこは、血を吸う鬼が孤独に住まう、呪われた屋敷であった――。


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  • No.83 by 吸血鬼  2018-08-03 09:17:41 



ハリー……ありがとう。俺たちの間には、難しいことがたくさんある。だが、それすらも関係ない。俺はこの屋敷で生涯を閉じるよりも、お前を失うことのほうが何倍も怖い。……命尽きるまで、傍にいてくれ


(身勝手な想いを真っ向から受け止めたうえで、想像を絶する覚悟を以って自らこの屋敷に再び足を踏み入れた彼の姿を見た瞬間、年柄にもなく涙がこぼれそうだった。それは寸でのところで堪えたが、心からの感謝を述べた声は少し震えていたかもしれない。すっと息を吸い込んで深呼吸をし、ハリーの頬に添えられた手を彼の後頭部へと回して優しくこちらへ抱き寄せる。勢いのままに強く彼を抱き締めながら、改めて一生に一度のお願い事をして)


『 ア り え ナ い』


(ギシギシと屋敷が軋む。地響きのような音と共に、地震が起きていると錯覚するほどに屋敷全体が震動する。ラザロの魔力による妨害で魔女の声は届かないはずなのに、それすらも突破して怨嗟を吐く醜い声は、今まで聴いた中で一番恐ろしく。だが、ハリーを失うことに比べれば、少しも怖いとは思わない。)


……いいや、これが俺の答えだ。俺はもう孤独ではない。お前の思い通りになど、なってたまるか


(ハリーを抱き締めたまま、彼の耳元で魔女へと囁く声には、爆発的な怒りや憎しみはこもっておらず、ただただ前向きな覚悟が渦巻いていた。心のどこかで全てを諦め、無意識に魔女に屈服していた昨日までの自分とは決別する。隣にハリーがいてくれる今、自分にできないことなどないと、本気でラザロはそう思えていた。心臓がないはずのラザロから、ドクン、という鼓動が一度だけ聞こえたのは気のせいではない。それが何を意味するのか今は定かではないが、それでも今まで持っていなかった大きな力が覚醒したことは何となく察しが付くだろう。その証拠に、魔女が放つ禍々しい邪気も、喧しかった屋敷の震えも嘘のように消え、清々しい静謐がこの屋敷に訪れて)

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