吸血鬼 2018-06-27 00:10:52 |
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そう、……そうだ。人間に対して、いや、誰かに対してこんな想いを抱くのは初めてだが。…………もしも、此処から出られたら。俺は自由を取り戻し、お前は夢を取り戻す。……違うか?
(自分が言いたかったことを的確に言葉にしてくれたハリーに、目の覚めるような思いで頷いた。自分は彼を、傷つけたくないのだ。餌である人間にそんなことを思うなんて、吸血鬼の常識では異端とも言えるとても酔狂な話だが、然してそれを悪くないと思ってしまう自分もいた。けれど、もしハリーとは別の赤の他人に対しては、同じ感情は抱かないだろう。餌として、一片の躊躇いもなくその首筋に牙を突き立てるはずだ。どんどんラザロの中に、ハリーを特別視しているという自覚が生まれ始める。だが、その先に待っているのは儚い現実だ。この屋敷から出られる目途が立ったわけではないが、その未来へ思いを馳せれば、ラザロは視線をハリーから逸らした。ハリーと離れたくない。だが、彼には背負う過去と譲れない夢があることを、知ってしまったから。自分自身に言い聞かせるように、ラザロは言葉を紡いだ)
ふむ……不便かもしれないが、寝間着だと思って我慢してくれ。それに、……そんなに悪くない
(ベッドから立ち上がった相手に、貧血は大丈夫なのかと一瞬ヒヤリとするが、自分の力で難無く着替えを済ませた辺り、恐らく大丈夫なのだろう。やはり、と言わんばかりに苦笑を浮かべたハリーの姿を、顎に手を当てながら一瞥して。自分の服を誰か別の者が着る、という感覚があまりに不思議だが、相手がハリーだからだろうか、それも悪い気はしなかった。ぶかぶかまではいかないが、ゆったりとスウェットを着こなす姿に、どこか愛おしさを覚える。それが愛しいという感情であるとはラザロ自身気づいていなかったが、ハリーの姿を見る視線はとても穏やかで)
俺の体内時計が正しければ、もうすく朝焼けだ。昼夜逆転させてしまって済まないな。明日の朝食……いや、夕食か。その時は、精のつくものを出させよう。
(寝支度が整ったところで、ふと今の時間に意識が向かう。吸血鬼である自分が、ほんのりと眠気を感じているということは、もうすぐ朝日が昇る頃なのだろう。今日は騒動があって、彼を人間界での正しい時間に寝かせてやれなかったことを謝って。そして、自分が少なくない量のハリーの血を奪ってしまったことから、造血効果のある食事を使い魔に用意させることを宣言しておく。コウモリたちによる、割れたシャンデリアの破片の掃除もちょうど終わったようだ。ラザロもその場で一つ伸びをして、自分の寝床である棺に向かって)
(/ありがとうございます。それでは、背後はこのあたりで失礼いたします。重ねてのお願いになりますが、今後ともよろしくお願いいたします。)
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