吸血鬼 2018-06-27 00:10:52 |
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ああ、ハリー……俺は、お前を喰い殺してしまったかと……、本当に、すまない……
(大丈夫だと薄く笑ったハリーの顔はすっかり血の気が引いていて、思わず泣きそうな気持ちに襲われる。なんともないからといくら言われても、安堵よりも罪悪感の方が断然強く。だがそんな中でも、一つだけ心から安堵したことがある。それは、ハリーが生きていてくれたこと。果たして彼はどんな方法で自分を止めたのだろう、と頭の片隅で考えていると、不意に頬に温かく柔らかい感触。まさしくそれは、自分が暴走している最中、耳に感じたものと同じで、ラザロは思わず目を瞠り、ハリーを目を見て)
っ……今のは……、魔法か……?
(そう言い放ったラザロは、至極真面目だ。キス、というコミュニケーションが人間同士に定着しているのは知っているが、それはあくまで愛や友情を伝えたりするためのもの。それが吸血鬼の暴走を止めるだなんて聞いたこともなく、もしかしたら魔法が宿ったまじないなのかもしれないと、ハリーの返答を待つ。何よりそれは、心地よすぎるのだ。唇が触れるだけで、冷え切った心臓が高鳴るような。そんな芸当が出来るのは、魔法以外に説明のしようがなくて)
『…………どうして?ねぇ、ラザロ、どうして?それ、ただの餌でしょう?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どっ――――』
(ハリーとラザロの様子をずっと見ていた――否、見ていたという言い方は少しだけ語弊がある――もとい、知覚していた魔女は、自分の思い通りにならない怒りに打ち震えた。ラザロは餌たるハリーを喰い殺し、その極上の血で延命する。そして屋敷から不純物は取り除かれ、またラザロを独占できる。その目論見が外れることなんて信じられない。いつのまにか壁に掛けてあった、女性が描かれた絵画の口が、魔女の声に合わせてパクパクと動く。その様子は不気味極まりなく、ノイズがかった魔女の声音も相まって、まるでホラー映画のワンシーンだった。ラザロは、久しぶりに耳にした魔女の声に、怒りを露わにその絵画を睨みつける。数百年ぶりにエネルギーである血液、しかも大好物のものをたっぷり摂取したおかげか、ラザロの持つ魔力は高まり、視線だけで絵画を粉々に砕いて)
……卑しく身勝手な魔女。二度とハリーを傷つけるな
『…………ふ、フフ、あはハはハハは!!400年と幾日、ようやく私に気付いてくれたのね!ずっと、ずぅっと傍であなたを見てたのに……鈍感なんだから。ねえ、愛しているわ。愛しているの、永久(とわ)に、ずっと、永遠によ』
――五月蠅い。喧しい女だ
(絵画が砕かれても、屋敷の中に魔女のおぞましい声が木霊する。魔女は狂ったように嗤った。ラザロに殺気や憎しみを向けられることにさえ、喜びを感じるのだ。そういう意味ではどうしようもなく厄介と言えるだろう。ラザロも、嫌悪を通り越して呆れを覚え、一度だけ柏手のように高らかに手を打ち鳴らした。乾いた音が屋敷に充満するのと同じ速さで、ラザロの補填された魔力が充満し、魔女の声を封じた。これが何日間持つかはわからないが、ともかくしばらくは実体なき魔女の声に邪魔されることはないだろう)
……本当に済まない、ハリー。罪滅ぼしと言っては何だが、応急処置を施そう。とはいえ、これを実践するのは初めてなんだが……上手くいくよう善処する、大人しくしていてくれ
(邪魔者を片付け、長い嘆息を一つ。そしてくるりと振り向けば、ベッドの上のハリーのもとへ歩み寄り、ベッドの淵へ腰かけ、もう一度すまなそうに謝る。そして思い出したのが、吸血鬼が親密な関係にある獲物(つまりいつも血液を提供してくれるパートナーのような人間)に施すある処置のこと。それがどういう処置かは説明しないまま、ラザロはそっとハリーの首元に手を回し、先ほど自分が牙を突き立てた首筋の傷跡に顔を寄せると、優しくそこに口付けて)
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