赤の女王 2018-06-06 13:39:59 |
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>グリフォンさま
ぐり、ふぉん、さま。
(三種の神器どころか片仮名すらもろくに存在しない時系列から攫われてきた身からすれば、その響きは不思議な魅力に満ち満ちていて。発音の難しいそれを一度はたどたどしく反芻し「グリフォンさま!」ぱぁっと顔を輝かせて、犬歯が覗くくらい口を開いて喜色を滲ませる様は、子供が広大な草原からクローバーを見つけた時のような純粋な喜びに溢れて。「こんなにお綺麗ぇな方のお名前、もろうてしもてえぇんでしょか」下賤の身がこんなにも神秘的な彼の事を名で呼ぶなんて恐れ多い、そう思えばこそ霊妙な名を教えてもらえた価値が一層身に染みるように、にっこにっこと満面の笑みを。そうして、親切にも教示してもらえた事実には真剣な面持ちで最後まで聞き入って「ほな、ひなと__ちゃう、ありすはもう、あすこへ帰らんでもえぇとですか」名を言い換えた事に、素直な精神がゆえの聞き分けの良さが滲み出る。自分の立ち位置を把握し受け入れる事は、早ければ早いほど良い。それはあの地獄で嫌というほど学んだ教訓だ。そんな仄暗さはおくびにも出さず、むしろ膝立ちになって前のめりに「これぇ、夢とちゃいますよねっ」高揚感と焦りの混ざった、複雑な光を両目に宿して確認を取ろう。襟首を掴まれてしまえば"んく、"と獣の赤子の如き声を漏らし、彼が何やら取り除いてくれたのだと悟れば「んへ。おぉきに、グリフォンさま」にへぇと締まりのない笑みで、世話を焼いてくれる事への喜びと感謝を精一杯伝えよう。服へ触れていた手の指先へ視線を移し、与えられた選択肢に「、え」と間の抜けた声を零すも、すぐさま続いた彼の言葉を遮ることなく静聴。選べ、と言われれば「グリフォンさま。」最初から答えが決まっていたように、淀みなくはっきりと望みを伝える。この見知らぬ地で頼れるのは現段階で彼だけ、言葉は乱暴だが心は優しく暖かい。なればこそ、彼についていきたいと惹かれるのは自然の理で。ゆっくりと立ち上がれば、さほど変わらぬ目線でまっすぐに彼のちぐはぐの瞳を射抜き「美味いモンも、凝ったおべべも要らんとです。あなたが許してくださるんやったら、ひなとはグリフォンさまと一緒におりたいです」どうか伝わっておくれと、切に願いながら本望を吐露しよう。気が変わって断られるかもしれない、そう思えば大事に羽根を握る両手にも無意識に力がこもってしまう。言葉の滑りを良くしようと、生唾をごくりと飲み込んで「そん代わり、ひなとはグリフォンさまのために働きとうございます。グリフォンさまの役割が迷子のおもりなら、”ありす”の役割は何でしょうか」自分に果たせない無理難題を突き付けられたらどうしよう。天より垂らされた救いの蜘蛛の糸、いつ千切れて奈落へ落ちてしまうか分からない不安に、羽根へと縋る手は声と共にふるふると震えて)
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