赤の女王 2018-06-06 13:39:59 |
通報 |
>悪魔
っ、ン――!
( 取引の成立に安堵する間もなく、整いすぎた悪魔の笑みに薄ら寒さを覚えた瞬間、硬くも柔くもない何かに唇を奪われる。有難う、と暢気に零しかけた謝辞も、生暖かい感触に攫われ。全身が強張り、指先まで力んだ両手首の金環が、厭に澄んだ音色を奏でた。気付いた時には指と指の間に絡めるように男の衣服を握り締めており、唇が離れれば無意識に止めていた呼気を吐く。弛緩した指先から衣服はするすると逃げてゆき、図らずして甘やかな響きになった溜息を掻き消すように、粗雑な手つきでぐいと口許を拭って「 ……我輩は、悪魔と契約をしたのか。差し詰め、今のは捺印という訳だな 」不快だったわけではないが、一人の男としてのプライドが口調を刺々しくさせる。悔しげな双眸で睨むように悪魔と名乗った男を見つめ、襟元の布を正し。契約を守る、との言葉は真実だったようで、黒犬に対する情報を明かして貰えれば瞠目し。――そうか、アレは無事なのか。心からの安堵感がじんわりと胸に広がるが、悪魔の吐いた"独りぼっち"という言葉に足は竦み )…もう、アレには会えないのか?我輩は、独りで生きていかねばならないのか
トピック検索 |