アリスは憂鬱な夢を視る　/　半無登録、指名制　/　NBL　/

＞失敗アリス

本物？―――よく分からないが、そう簡単に命を取られるような鍛え方はしていないからな。伊達に年を重ねた訳じゃないのさ。(声をかけた途端に条件反射の様に揺れた体の動きには気付いたが、特に何を言うでもなく、暗闇の中へ逃げられてしまう前に整った造形をまじまじと見つめながら、ふっと口角を吊り上げて不敵に笑みを零して。前にも誰かにこんな事を言われたような気がするなあと呑気に考えを巡らせる最中に此方に伸ばされた掌。視界の隅に映ったそれを振り払うことはなく、彼の行動を、フードに隠された表情を、瞬きせずにナイトブルーの虹彩に焼き付ける。頬に触れた指先はひんやりとした無機質な質感。夜風に晒されて冷えた訳ではない。一切の温もりを感じえない体温に、生身の人間のものではないとすぐに判断が付いた。職業柄、命を失ったがらんどうの器に触る機会は多かったから。だが、死体は動かない。口も利かない。道端の石ころと同じように物も言わずに横たわっているだけ「オレが生きたアリスだっていうなら…君は、死んでいるのか？」不思議そうに小首を傾げ、問い掛けを一つ。重心を移動させた際に、靴底で踏んだ足元の小枝がぱきりと音を立てて弾け)だとしたら、少し気になる。