赤の女王 2018-06-06 13:39:59 |
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>>悪魔
アリス?……俺には到底似合わない可憐な名前、くれてやるって?
(彼が悪態をついた途端畝った薔薇の蔓がこちらへ伸び、その様子はまるで貶した彼を咎める意思が植物にあるみたいだった。そんな不可解な光景を目の当たりにしてしまえば、ここが少なくとも自分の生まれ育った現実世界ではない事は検討がつく。更に、自分自身に大した興味を持たぬ己であっても、唐突に名前を捨てろなどと言われた暁には眉間に皺を寄せ首を捻っても致し方ないと思う。それでも訳の分からない状況下の中初めに出会った彼こそが救世主であると思い込み、ここは一旦大人しく様子を見ようと聞き分けの良い子供のように頷いてみる。「……まあ良いや、この場所のことは俺よりアンタの方が知ってるだろ。"ジェリー"なんて元々気に入ってないんだ、有難く"アリス"になっても良い」この辺りで段々と脳が麻痺して来て、全て夢の中の出来事なのでは、と新たな疑念が浮かぶ。痛みも寒さもいやに鮮明に感じるが、その線はまだかなり有力だった。冷めきった頬に触れた指もまた寒風のせいか氷のように冷たく、身動きの取れぬまま心地好い速さで紡がれる言葉に耳を傾けていた。黙って聞いていれば悪魔だと名乗り出した男の眼を食い入るように見詰めながら、死神なんて馬鹿げた予想もあながち間違いではなかったと。不意に乾いた音を立て叩かれた頬の痺れで我に返る。悪魔の持ちかけた"ゲーム"と称された提案に乗らないという選択肢は己にはなかった。どう足掻こうが自分は知らない土地に置き去りの身なのだから、悪魔だなんて物騒な輩でも彼に従う他術はないことを瞬間に悟って、頬への口付けに若干の戸惑いを見せつつも身動ぎせず一呼吸置いてこう告げて)
──分かった、乗った。要するに知りたきゃそれに見合う行動で示せってコトか。聞きたいことなんて山程あるけど、俺はアンタがどうすりゃ満足すんのかが一番に知りたい。じゃなきゃフェアじゃない、から。
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