赤の女王 2018-06-06 13:39:59 |
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>蜥蜴のビル
ふふ、すっごく寒い。だけど綺麗だ。(すっかり銀色に染まった庭園は室内の温かさとは桁違い。吐き出した吐息は白く空気を揺らして霧散していく。頭上を覆う鉛色の空の下、凍て付くような冷たい風も、未だ絶え間なく降り注ぐ白い雪も、この美しい光景の前では霞んでしまう。真近に見る薔薇の生垣を慈しむ様に眦を細め、粉砂糖をまぶした葉を指先で柔く弾き。新雪がハラハラと地に落ちて行く様を見守りながら紡がれる言葉に耳を傾けた後に彼の手元を一瞥、土いじりの経験は一切ないが彼の手中に大人しく収まった切れ味の良さそうな剪定鋏にだけは妙な既視感を抱く。この国に来る以前、仕事で何度か手にした経験のあるナイフの類と重ねて口を開こうとするも刃渡りの短い武具の名称が咄嗟に思い浮かばず結局は心得たと頷いただけ。今回はお粗末な記憶力が功を成した。共通点を見出したとばかりに嬉しそうに頬を緩ませながら“オレもタガーナイフの扱いなら得意だぞ、相手は植物じゃないけど”等と宣った日にはドン引きどころでは済まされない。気を取り直して薔薇に向き直り、彼に言われた通り、色彩を欠いた花弁を見付けるごとに、声を掛けたり、深緑のジャケットの裾を引いて、裁断を促して。生きる為に、当人も無自覚の内に発達を遂げた動体視力のおかげで、花弁の選別は洋服選び同様、滞りなく進んで行く。そうして、彼から終了の合図が掛かれば、暖炉のある部屋までの案内を催促し、発泡酒で喉を潤して、多幸感に文字通り酔いしれるのだろう)
(/お世話になっております。大変名残惜しいのですが、明日の仕事が早いため、この辺りで失礼させて頂きます。少々無理やりではありますが、愚息の方も回収しておきます。一人ファッションショーにお付き合い頂いただけに留まらず、まさかの剪定作業の手伝い(という名の妨害)までさせて頂き、幸せいっぱいの背後です。それでは本日も、長時間に渡ってお相手頂きありがとうございました!また機会が御座いましたら是非、遊んでやってくださいませ!)
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