赤の女王 2018-06-06 13:39:59 |
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>赤の女王
(歌う様に、宥める様に。優しく鼓膜を打つのは繰り返される「大丈夫」という言葉。止まらぬ嗚咽を急かすでもなく優しく触れるその手を慈愛と呼ばずして何と呼ぶ。違う、助けなければいけないのは、私なのに。早く此処から連れ出さなければ、青い顔はいずれ土気色に変わるのだと、私はもう知っているのに。ぐらぐらと揺れる視界は未だ赤い、赤いがそれはきっと目の前の御方の纏うもので。そう理解が追い付けば悪いものでも吐き出す様に、ぼたりぼたりと重く大きい涙が数滴床で弾けた。潮がさあっと引くように、興奮は徐々に徐々に収まって、呟かれるうわ言も羽のような口付けを受けて静かに止んだ。背中に回された腕が、抱き締められている体が暖かかった。硬い動作でその肩に僅かに顔を埋め、小さく細いsorryが絞り出されよう。だが、ここまでだ。彼女は女王であり、みんなの母である。独り占め出来る特権を、己は持ち得ない。名残惜しさの隠し切れない緩慢な動きで、そっと甘い揺りかごから脱すると、眉を下げて笑ってみせた。もう大丈夫だと告げる為に。「お初にお目に掛かります、女王陛下」立ち上がると、恭しく足を引いて正式な礼を。そうしてもう一度顔を上げれば「じょーおーさま、びょーきなの?」何時もの彼女が、無邪気に、そして心配そうに首を傾げようか)
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