ナレーター 2017-02-08 12:30:30 |
通報 |
[ストーリー]
アメリカのとある小さな街で、ひとりの美しい女に恋をした男がいた。
振られても振られても幾度もアタックし続けて、彼女もとうとう彼を受け入れ、ふたりはめでたくゴールイン。
ささやかだが愛に溢れた、幸せな家庭を築く。
時は流れて、今現在。
男の愛した女はいない。
不慮の事故に遭遇し、10年前にこの世を去った。
男は、今や父親だ。
5人の美しい娘たちを抱える、シングルファザーの父親ニック。
彼はその街で、“イカれた娘狂い”としてちょっとした有名人だ。
何しろ5人の娘たちは、ニックの愛した女の娘。
かつての若い自分のように、娘にベタ惚れする男が現れないはずがない。
だが、どこの馬の骨ともわからぬ輩に、大事な娘をやれるものか。
妻が遺した娘たちは、大切な宝物は、死んでも自分が守り抜く。
かつての自分を棚に上げ、父親ニックはそう決めた。
娘狂いの父親ニックは、頑張った。
どんなに寝不足だったとしても、可愛い娘たちとおままごとに興じる時間は欠かさない。
髪を上手く結んでやるため美容学校に通ったし、ハロウィンの日には、白雪姫やアリエルやベルにおめかしした娘に合わせ、魔女やトリトンや野獣になった。
父親ニックは、娘たちが大好きだ。
だからこそ、本当はわかってはいるのだ。
年頃になり美しくなった娘たちは、いつか自分から離れていくと。
かつての自分のような男が現れ、愛しい娘を攫っていくと。
それこそが娘たちの、幸せであるのだと。
わかっては、いる。
だがもう少しの間だけ、宝物の持ち主は父たる自分でいさせてほしい。
そして、娘たちを攫うのはせめて、彼女たちを生涯守り通せる強い男であってほしい。
だから、彼らの前に立ちはだかって強さが如何ほどか試すのだ。
自分のように、容易く妻を死なせない。
そう見込める、強く、頼もしい男。
そんな男にこそ、ニックの愛しい娘たちは守られるべきなのだ。
そんな男を、自分がしっかり見定めよう。
──そう、思っていたのだが。
「パパ、私今夜は合コンパーティー行ってくるわね! 実業家とか社長の息子とかたくさん来るみたいだから、ちょっと試しに引っ掛けてみる。上手くいけば、きっとアレとアレとアレが買えて……」
「え」
「私も出かける、映画の打ち上げパーティーあるから。大丈夫、スケベな監督には気をつけるし、不倫誘ってくる馬鹿なプロデューサーは張り飛ばすし、ちゃんとマネージャーの車で朝までには送ってもらう」
「いや、ちょっと」
「私たちは実験の最終段階やりたいから、被験者になってくれるクラスの男子の家に一泊して来ても良い?」
「成功してモノが出来たら、特許を取って売り出して、それで一人頭年10万は堅いんだ。だからお願い!」
「おい待て、それは」
「パパ、私はクラスの下b……男友だちがね、私に踏まれたg……誕生日パーティーに呼んでくれるって言うから、調ky……ちょっと遊びに行ってくる。男の子たちしかいないけど、平気よ、皆と凄く“仲良し”だから。本当よ?」
「こら、待て、待ちなさい、戻りなさいおまえたち!!」
ニックが警戒すべきなのは、娘たちの方だったのだ。
──そして、そんな手の焼ける娘たちすらも翻弄させる男たち。
「……まさか、親友の娘にな」
「マネージャーの域を出ないと、決めていた。そのつもりだった」
「君の前だと、平気なふりを演じることなんてできない」
「例え大統領令だろうと、おまえ以外の女と付き合うなんざごめんだね」
「僕の国に、一緒に来てくれないか」
──ニックの暴走は止まらない。
「……というわけで」
「どういうわけだ!! 副社長だろうがなんだろうが知るかこのロリコンめロリコンが許されるのは日本人だけだそうだろうが!!」
「娘さんを」
「やらん!! やらんぞ!! お前ハナからそのつもりでマネージャーやっていたのかこの野郎礼儀正しく三つ指ついて土下座して失せるが良い!!」
「俺に」
「最近ようやく手に入れた日本刀の斬れ味をおまえで試しても良いんだぞそれかその顔かそのハンサムフェイスと映画みたいな甘い台詞で誑かしたのか叩き斬ってくれるわ!!」
「くださ──」
「お前散々新聞で喧嘩を取り沙汰されてたろうが!? お前の父親はできる男らしいが息子のお前がそうとは限らんそんな奴に娘をやれるかホワイトハウスに引っ込んでろ!!」
「日本茶飲みます?」
「………………、ああ、正直怒鳴り過ぎて何も言えなくなるほど喉が枯れそうだったから助かる……ありが──」
「あ、じゃあ娘さんを僕にくださ」
「やらんッ!!!」
恋人に、義兄に、義妹に、義父に。
愛情に繋がれて、遠かった他人同士は、家族になる。
トピック検索 |