悪魔 2016-07-30 21:15:58 |
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――心に閊えるものだと?…らしくないじゃないか。悪魔がそう簡単に良心を痛めるものとも思えないが。
(私室へ向かいかけた足を止め、引き留めの言葉を背中で聞き終えるなりゆっくりと振り返り。幾ら睨み付けようが隙らしい隙も見せぬ悪魔の強かさは先程の対話で確認済みゆえ、打って変わり同情的な発言を繰り出す様はどこか胡乱でもあり。本気で言っているのか揶揄われているのか判然とせずに眉を顰めるもののそれは嫌悪というより戸惑いからくるもので、軽口を挟みはするがすっかり鋭さの消えた瞳を隠すよう手元の毛布へ目を伏せると暫くの逡巡ののちに再び顔を上げ、寝台を弾く相手の掌に導かれるようにして静かに其方へ歩み寄り。ギシ、と軋み立つ音と共に片膝でベッドに乗り上げ、返事の代わりに手にしていた毛布を布団の上へ被せてやりながら呟くように言葉を続けると、傍らに横たわる相手の顔を何となく視界に捉えた拍子にある追憶が胸裏に蘇り。毎日のように寝起きを共にしていた幼い弟との淡い記憶を彷彿とさせるこの状況から、つい相手の頭に手を伸ばしてしまえばそのままあやすような手付きで其処を撫で遣り。触れた感覚は当然別人のもので、ふとした違和を覚え我に返るとわざとらしい咳払いを一つ残して寝台から足を降ろし)
……今夜は冷える。これも使えば少しは温かいだろう。――俺は、寝支度を済ませてからまた来る。先に寝ていてくれないか。
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