ムーン 2016-02-18 17:52:07 |
通報 |
旅の行程も半分ほど進んだ頃。
ゴンザレス商会の主人ハウルはロジャーに聞いてみる事にした。
商会側の焚火から、ハウルがゆっくりとした足取りで此方の方へ歩いてきた。
「少しいいですかな」
「ああ」
「予定では後五日ほどで着くと思うが、明日からは宿に泊まれるのか?」
「そうだな。この先に小さな村が三件と町があるから大丈夫だろ」
町や村がある事は、商人なので知っていた。
が、本題はそこじゃない。
これは単なる話のきっかけだ。
「しかし、貴方達は仲が良いですな。そこの子供は誰かの兄弟ですかな?」
「シオンの事か?イヤ。シオンは二年前に俺が買ったガキだが」
「それにしては何と言うか・・・・」
「ふっ。魔力なんか無くてもシオンは賢い。今じゃ息子の様なもんだ」
「ほほぅ。大した器の方な人のようですな」
ハウルは感心しながらもシオンに興味を持ち始めたのだった。
そしてもう一人。
興味津々と言うか何と言うか、ずっと此方に視線を向けている人がいた。
ローズだ。
ローズは父親が冒険者側の焚火の方へ行った事確認すると、スタスタと歩いてきた。
「父様、何をなさってるんです?」
「いや、ちょっと話しをな」
父親に話しかけながらも、チラチラと視線がシルバーに飛ぶ。
そんな娘の様子に気が付いたハウルは。
「どうした、ローズ」
「いえ、別に…」
いえ、別に。と言いながらも、視線はシルバーに向けられていた。
「犬か?触りたいのなら触らせてもらいなさい」
「でも…」
そう言いながらローズはシルバーを抱いてるシオンに目を向ける。
ローズとシオンの目が合う。
しかしお互いに無言のままだ。
「どうした?娘に抱かせてはくれないのか?」
ハウルがシオンに問う。
ロジャーも┐(´д`)┌ヤレヤレ と言った表情でシオンに言う。
「そこのお嬢様が抱かせてほしいんだとよ」
しかし、シオンの反応はというと。
「ロジャーさん。僕にはお嬢様が「抱かせてください。お願いします」と言う
言葉は聞こえませんでしたよ?」
シオンの横に居たクゥが小声で
「そこは察してやるっすよ」
俺はクウを見ながら
「自分の気持ちは誰かが察してくれると言うのは間違いだと思います。
そういう育ち方をすると、誰かが構ってあげないと一生自立が出来ないと思うんですよ。
今は良いですよ。ちゃんと両親が揃って気持ちを察してくれてるんですから。
ですが、もし一人っきりになったらどうするんですか?
全て自分で何とかしなきゃいけなくなるんです。
頼る人なんて誰も居ないんです」
「シオン、そこまでだ」
俺は、前世と今世の記憶が走馬灯のように流れる中で一気に捲し立てた。
前世では親の引いたレールの上をのんびり走り、良い高校、良い大学へと進み一流会社に就職した。
両親は俺が何も言わなくても、俺が望んでいる事を的確に判断して、その愛情を一身に受けた。
その結果、ちょっと…いや、かなり生意気な性格になってしまったと思う。
今思えば、かなり恥ずかしく嫌な奴だったよな。
そして今世では、生まれて直ぐに母親を亡くし、父親が誰なのかもわからない。
ずっと孤児院で育った俺は、頼れる者など誰も居なかった。
自分の命は自分で守るしかなかった。
それでも前世の記憶があったおかげで、俺は心を折る事なく、あらゆる知恵を使って生き延びてきた。ロジャーに会うまでは…。
だからこそ腹が立ったんだ。
誰かが自分の心の内を察してくれるのが当たり前だと思っているローズに。
トピック検索 |