ムーン 2016-02-18 17:52:07 |
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俺は周りの景色を見渡しながら、この世界に転生した時の事を思い出していた。
自爆テロに巻き込まれて死んだはずの俺が、何故か前世の記憶を持ったまま生まれてしまった事。
そしてここは、慣れ親しんだ地球ではないどこかの世界。
人間・獣族・魔族と言う三種類の種族が共存する世界。
獣族や魔族に進化できなかった者達を『魔物』と呼び、時には討伐をする世界。
何故、討伐されるのか。
それは、知力が明らかに足りなく、意思疎通の『言葉』を操れないからだ。
その為、理性と言うものが無い。
目に映る動くものは『殺』、全てが餌に見えるらしい。
町には魔物除けの結界が張ってあるらしく、中には入って来れない。
だから俺は、この世界に魔物と言うものが存在する事を、ついこの間まで知らなかったのだ。
乳児院では皆が親切だった。
だからこの世界も悪くないと思った。
しかし、孤児院では地獄だった。
特にジェシカ。アイツだけは許さん。
少しの間だったが、ロイドは良い奴だったな。
孤児院(あそこ)に行った初日の事は、今でも覚えてる。
「早く入りな」
後ろから蹴飛ばすジェシカ。
俺を小屋の中に入れるとジェシカは無言で出て行った。
「大丈夫か?俺はロイドってんだ。よろしくな」
見た感じ十歳前後の少年だ。
髪の色はピンク。
カラーリングでもしてるのか?って言うくらいに綺麗なピンク色だ。
辺りを見まわすと、十歳前の子供が数人いる。
薄汚れてはいるけど、髪の毛だけはカラフルだ。
クリーム色の髪の子供に、薄い水色髪の子供。
そこに居る子供の全員が、カラーリングをしたみたいに色素の薄いカラフルな髪の色をしている。
そう言えば、馬車の中から見かけた人達は、みんな原色っぽい髪の色をしてたな。
ジェシカは黒髪だったが、御者の男は赤髪だった。
他に見かけた色は…、青‥緑‥オレンジか…。
これってなんか意味でもあるのか?
「お前、名前は何てんだ?」
「・・・・ハルシオン」
「シオン!よろしくな!」
挨拶のしっかりできるガキは嫌いじゃない。
ロイドと言う子供、気に入ったわ。
再び部屋の中に視線を戻すと、部屋はここ一つだけのようだ。
なのにベッドが無い!
一体どこで寝ろと言うんだ?!
見ると、子供達が薄汚れたボロ布を体に纏って、床に座っている。
中にはそのボロ布を蓑虫(みのむし)の様に巻いて寝てる子もいる。
なるほど。そういう事か。
部屋の中も掃除をしていないのか、やけに埃っぽいしな。
ここは孤児院とは名ばかりの軟禁部屋か…。
なんて思ってたんだけどな、軟禁されてるだけじゃなく、奴隷の様にこき使われた。
「グズグズしてないで、これ持ってとっとと洗濯しておいで!」
少し行動が遅いとジェシカに鞭で殴られる。
お前ら、鞭で殴られた事あるか?
無いだろ。めちゃくちゃ痛いんだぜ。
ミミズ腫れが出来るほどにな!
「イテテテテ…。バカ女、いつか殺す」
悔し紛れに小声で言った。
「何かいったかい?」
ギロリと睨まれ、俺は
「イエ…なにも…」
としか言えなかった。
誰だよ。いま「ヘタレ」とか思った奴はよ。
相手は大人でバカ女だぜ?
対する俺は、精神年齢だけは大人だけど、体が五歳なんだぞ?!
勝てる訳が無いじゃねえかよ…。
その五歳のいたいけな子供にだよ?
洗濯籠三倍分の量の洗濯を押し付けるって、考えられんだろ…。
それも手洗いだぜ。
そこで俺は考えた。
桶の中につむじ風を発生させたら洗濯機になるんじゃね?ってね。
結果は。大正解!だったね。
だてに一人暮らしやってたわけじゃないんだわ。
こうなったら徹底的に文明の力を使わせてもらうよ。(隠れてな)
この時点で俺は面白い事を発見した。
同じつむじ風でも、庭掃除の時は『ルンバ』と言えば小さなつむじ風が発生し、
洗濯の時は『渦潮』と言うとつむじ風ができる事を。
これってもしかして…術名関係なくね?
そう理解したら、色々な魔術ができるようになった。
洗い物をしてて手を切ったら『塞がれ』と思うだけで傷が治ったり。
こき使われて「疲れた~」と思った時に、
「ゲームならこう言う時は『ヒール』をすれば回復するんだけどな…。」
ポツリと呟いてしまったんだ。
そしたら、あら不思議。全回復しましたとも!
ワッハッハハ。いけんじゃね?と、思うじゃん?
でもダメだったのさ。
なんでかって?
ふん。MPの量が足りないんだよ。
HP 200/16500 MP 200/35000
パッド君を見たら、ヒール一回につき20消費だとさ。
それでHPを100回復だそうだ。
そんなもん十回も使ったらガス欠よ。
つむじ風も一回につき10消費らしい。
大きさにもよるけど、俺が庭掃除に使う奴が10で、洗濯に使う奴が20消費なんだってさ。
しょっとションボリしちまった俺だけど、とりあえずは、使える時はガス欠になるまで使った。
たまにお使いで買い物に行った時は、途中の川で泳いでる魚が美味そうに見えてな。
どうにかして魚を獲れないもんかと色々考えたさ。
初めは小枝にツタを絡ませてやってみたりしたが、無理だった。
次は手で獲ろうと思ったけど、相手の方が一枚上手で、近付く事さえ許されないかった。
で、昔テレビでやってたマグロ漁を思い出したのさ。
大物はショッカーで電流を流して気絶させてから引き上げるってやつをね。
俺は川の中を悠々自適に泳ぐ魚をロックオンしながら呟く。
「カミナリ!いっけえええ!」
― ガラガラガラ…ドドーン
おお。カミナリ魔術成功だ。
しかし…、雷の直撃を受けた魚は…焦げて大破していた…。
なんてこったい・・・・。
このカミナリ魔術だが、MPを異常に喰う。
ごっそり100持ってかれた。凹むわぁ~。
残りMP10。
なので、静電気くらいの物しか落とせなかった。
が!これが大成功。
ヒクヒクしながら水面に上がってきた魚。
それを一目散に獲りに行く俺。
魚はちょっと気絶してただけのようで、10秒くらいで元気にビチビチと跳ねだす。
生きのいい魚、ゲットだぜ!!(ニンマリ)
魚を獲ったのは良いが、生のまま食べる気にもなれず、明日、魔力が回復したら、今度は火を起こす練習をしようと思う。
それまで魚は部屋の片隅で飼う事にしよう。うん。
と、まぁ、こんな調子で色々と魔術の練習をこっそりやってたんだわ。
ん?何でこっそりやってたのかって?
それはな。
この世界じゃ髪の色素の薄い奴は、魔力が弱いらしい。
髪の色が濃ければ濃い程、魔力が強いんだってよ。
んで、普通以上の魔力を持ってる孤児は向こうの館の方に住まわせてもらって、良い家に貰われて行くか、傭兵に貰われて行くんだとさ。
なら、そっちの方が良くね?とか思うだろ。
だけどな。
ボロ小屋に住んでる子供は、食事も少ししか貰えないんだ。
死なない程度に生かされてるだけ。
可哀想だろ。
だから俺は、あいつ等の目を盗んで、裏庭に小さな畑を作ったりした。
バレないように、結界を張る特訓もした。
そしたらなんかさ、闇スキルって言うのがやたらと出来るようになったわけだ。
ワッハッハハ・・・・闇スキルって何ぞ?!
肝心の光属性スキルが『ヒール』と『カミナリ』だけだけどな!
ああ、そう言えば、小屋の子供が風邪を引いて高熱を出した時に、「病魔退散」とか苦し紛れに呟いたら熱が下がったっけな…。
きっとあれは『解毒』の魔術だったんだろうな。
そのあと、なんか知らんけど、『万病退散』に進化してたわ。
――――――――――
ステータス
ハルシオン(10歳)LV未知数
HP 3500/16500 (剣術の稽古の成果)
MP 4000/35000 (仕事を楽しようと乱使用していたおかげ)
光(一部解除)『ヒール』『万病退散』
炎(一部解除)『炎弾』
水(一部解除)『水弾』
風(一部解除)『ルンバ』『渦潮』
闇(一部解除)『聞き耳』『映像感知』『結界』『影移動』『分身』『地図』
――――――――――
『影移動』は凄いんだぞ。
透明人間になるんだ。
このスキルを使ってジェシカの尻によく蹴りを入れたもんさ。
『分身』が使えるようになったきっかけは、隠れて練習する時になんか良い案はないかと考えててだな。
俺が二人いればいいのにな…、って思ってだな。
そしたら出来ちまったわけだ。
気合いだね。気合い。
気合いと根性でなんとかなるもんだな。うん。
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