幸せの蒼い『森』【小説】

幸せの蒼い『森』【小説】

天ノ河 玉藻  2016-02-02 01:54:26 
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『人間が森に気に入られたら、そいつは“幸せの蒼い森”に招かれる。』
目の前の光景を見て、幼い頃に祖父から聞いた話を思い出す。
“幸せの蒼い森”。誰も知らないその聖域に今、一人の少年が足を踏み入れる。

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  • No.25 by 玉藻  2016-04-12 01:40:43 

【第三話】

_________________

お城の中は、案外と明るかった。
そこかしこにある燭台全てに火が点いている。
ただし、普通の火じゃない。

青い火だ。

「うわぁ…」
「ふふ、綺麗な火でしょう?これも魔法の一種なんですよ。それと、見てわかると思いますけれど、この火は蝋燭や油を使っていません。」
ミミアさんはそう話しながら、淡々と歩いて行く。
僕は置いていかれないように注意しながら歩く。
燭台には青い火がある。
その火の元を見てみると、そこには何やら石のようなものが見えた。
「……あの石は……」
「あれは、燃晶石と言います。簡単に説明しますと、魔力の籠った水晶が燃えてるだけですね。少量の魔力でかなり長持ちしますから、蝋燭より便利なんですよね、あれ」
「へぇ……」
燃晶石………シャミが聞いたら絶対欲しがるだろうな。帰る時に少し分けてもらおうかな。

燃晶石の火はとても綺麗だ。
青い光が、優しく包み込んでくれるようで非常に落ち着く。
「ふふ、気に入っていただけたようですね。」
ミミアさんが立ち止まって言う。どうやらこの部屋に入るらしい。

あの中庭を真っ直ぐ進んで、城の中に入った僕は、ミミアさんに先導されていくつもの階段と廊下を歩いてきた。
その間、誰にも会わなかったけど、ここにいるのはミミアさんだけなのかな?
いや、でもミミアさんはあの木で“魔法”を使ったときに、私の魔法じゃないって言ってたっけ……
少なくともあと一人は確実だろう。

コンコンッ___


ミミアさんがおもむろにノックをする。
「………」
「………」
けれど返事はない。
「あらあら~、お出掛けでしょうか?それとも書斎に?…失します~」
すると何の躊躇いもなくドアを開けた。

そして現れたその部屋は、とにかく凄かった。
「うわぁ……何かよく分かんないものだらけ……」
壁一面の本棚、天井からぶら下がっている巨大な何かの骨、棚に並べられた綺麗な石や、壁に飾られた短剣など、そこかしこに変なものが大量に置かれている。
「ユウリ様~?いらっしゃいませんか~?」
“ユウリ”。
それが、この城の主なのだろうか?
周りを見渡すけれど、人は居ないみたいだ。
「うーん……いつもならいらっしゃるはずなんですけど……」
「お出掛けですか?」
「そうでしょうか~……」
ミミアさんは困ったとばかりに額に指を当てる。
「ん~………まぁ、いいですかね~」
「いいの!?」
軽くないですか!?
挨拶とかしなくていいんですか僕!?
ミミアさんは気にする様子を見せずに再び歩き出す。
僕もその後に続くけれど、何だか不安だ。
「あの……本当に探さなくていいんですか……?」
「ええ、気になさらなくていいですよ~。ユウリ様は優しいですから、ご自分のせいで空腹のスティラさんが待たされるなんていうことになったら、落ち込むでしょうし」
「そ、そうですか……」
……まぁ、これがいわゆる“気にしたら負け”なのだろう。
僕はそう考えて無理矢理納得した。


◇ ◇ ◇


その後は、大きな広間に案内された。
見たところ、食事をする場所らしい。
それにしても大きいな。何だか落ち着かない。
「では、少々お待ちくださいね~」
「あ、はい。その…すみません、こんな突然に……」
「いえいえ~、私としては料理を食べてくださる方が多いと嬉しい限りですから~!気合、入れちゃいますね…!」
そしてガッツポーズをしてミミアさんは厨房へと消えた。
「…………。」
静寂が再び訪れる。
とりあえず退屈だし、少し失礼ながらも室内を探索することにする。
「さてと…………んん!?」

何かしようとすると、よく変なことが起こるなぁ。
後ろを振り返ると、イスの上に赤い宝箱が置いてあった。
まさに宝箱だ、って感じの箱である。
「………………………………。」
開けて良いのだろうか?
開けろと言わんばかりのポジションにあるけれど……。
「………………。」
ちょっとくらいならいいかな、なんて思って、恐る恐る宝箱に手を伸ばす。

ガタンッ___!!

「ひぇっ!?」
う、動いた!?

宝箱はガタガタと揺れ始める。
中に何かいるのかな!?
と、その時

『おいッ!!ソコに誰かいるんだろ!?ユウリじゃねェならこの箱開けてくんねェかァ!!』
「た……宝箱が喋った!?」
『あん?聞きなれねェ声だなァ?客かァ?まァんなこたァどうだっていい!さっさと開けてくれやァ!』
と、とにかくここは素直に開けたほうがいいの、かな?
恐る恐る再び宝箱に手を伸ばす。そして

カチッ

小気味いい音を立てて宝箱のロックが開く。
蓋を開けると……

「…………猫?」

黒猫がいた。
額に何やら緑色の宝石がついているが、飾りだろうか?
「んだよ。何見てやがる」
「しゃ!?」
しかも喋った!?
黒猫は、知性の宿った瞳で僕を見つめる。
もう、ここは何でもありのパラレルワールドなんだろうか?
「おい小娘。お前、ユウリの知り合いか何かか?」
「え?あ、えっと……最初に言っておきますけど、僕は男です」
すっかり忘れ気味だが、僕は女装中だ。
これには黒猫も驚いたのか、僕のことを何度も見る。
「は?男?マジかよ?はァ?嘘つけ」
「本当です。」
「………。」
そして安定の沈黙。
まぁ、普通はこうなるよね……。
「……まァ……ワケありなんだろ?」
「……はい……」
「あァ……うん……ドンマイだな。あばよ」
それだけ言って、黒猫は去って行った。
「………。」

何だか、虚しくなってきたのは、気のせいだろうか………?

◇ ◇ ◇

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