天ノ河 玉藻 2016-02-02 01:54:26 |
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_____鼻先がむず痒い。
そんな間抜けたことを考えながら、体を起こす。
「ん……んん…?」
見れば、雑草の葉が丁度鼻先をくすぐっていたらしい。
「えっと……ここ、は……」
辺りを見回す。
あるのは木と草と、そして後ろには例のアーチだけ。
再び前に向き直る。そして、僕は唖然とした。
「え…………城……?」
そう、城だ。城がある。
視線の先、崖があるその上に、堂々と城が建っていた。
「な、何で?来たときは、何も……っていうか、僕は一体何で……」
疑問がいくつも沸き上がり、混乱する。
頭を抱えたくなる衝動に駆られるものの、なんとか押さえる。
「落ち着け……冷静で客観的に考えなきゃ……」
昔、おじいちゃんから教えられたことを思い出す。
焦った時こそ冷静で客観的な目線で考えろ、というものだ。
まず、ここで目を覚ます前の事を思い出す。
「ええと……狐を追い掛けてアーチまで来て……あ、そうだ!何かビビッと来たんだよなぁ……」
そして、物理的な意味でビビッと来たあと、夢を見た。
いつのことだったか。森に散歩に行った時のことだろうけど、正直ほとんど忘れてしまった。
「確か……蒼い森がどうとか言ってたっけ……森は蒼く輝いてるって………」
………蒼く輝いてる?
「あ」
そこでもうひとつ思い出す。確か物理的にビビッと来たその瞬間、目の前に蒼く光る木々が見えた。
「うーん……何だったんだろ……夢……?」
夢ならあり得る話だ。
または幻覚とか
……と、まぁそれはいいとして、今はどう考えても夢でも幻覚でもないこの状況を改めて認識する。
さてどうしたものか。
目の前に聳え立つ城を眺めながら思案する。
ちなみに、今立っている場所は何故か木が生えておらず、横一直線に原っぱが広がっている。まるで区切られているようだ。
もしかして、植林した場所かな?
そんなことを頭の隅で考えているうちに、どうするべきか答えが出る。
とはいえ、これ以外に答えなどないが。
「あのお城……誰かいるかな……」
吸血鬼とか、魔王とかがいなきゃいいけど。
そんな馬鹿みたいなことを考えつつ、僕は足を踏み出した。
◇ ◇ ◇
………おかしい。絶対におかしい。
何がおかしいかって?ふふふ、それはね……
全く前に進んでる気がしない!
正確には、進んでいるはずなのに、例の城が全く近付いてこないのだ。
まるで、太陽か月に向かって歩いている気分になる。
後ろを振り返っても元いた場所……あのアーチはもう見えない。
前に進んでいるはずなのに、前に進んでいる気が全くしない。
「どうなってんだこれ…」
いい加減足が痛い。
日も傾いてきたし、このままでは野宿だ。
雪の降る季節は終わったものの、屋外で夜を明かすことになれば、それなりの寒さは覚悟しなくてはならないだろう。
ついでに言うと、お腹も空いた。
朝食以外今日はまだ何も食べていない。
……今頃、シャミは心配しているだろうか……?
「……………してるだろうな……」
シャミのことだから、村の人を総動員させて森を探している可能性だってある。
「……早く、帰らないと」
やはり一番はそれだった。
早く家に帰って、シャミを安心させてあげないと。
「…………。違う、かな……」
そう、違う。
本当は、僕が安心したいんじゃないのか?
そう思うと納得してしまう自分が嫌いだ。
でも、事実だ。
僕は今、物凄く心細い。せめて、さっきの狐がいてくれたら良かったのに。
「それにしても……お腹好いたなぁ……」
「でしたら何かお召し上がりになって行きますか?」
「……………………………。」
………………………………。
………気のせいだろうか?声が聞こえた気がする。しかもまた後ろから。
となると、また狐でもいるのだろうか?
僕は固まって動かない。というか動けない。
普通、こんな場所で声を、しかもいつの間にいたのか、背後からかけられて驚かない人などいるだろうか?
それに僕はさっきの狐の前例もあるので、余計に動けない。
何度もあの怪現象を味わってたまるか!
「あらあら?あの~…どうかしましたか?」
…………。
気のせいだろうか?また話し掛けられた。
今度のは新手かな?
なんて馬鹿なこと考えてる場合じゃない。
このまま無視するわけにもいかず、後ろを向こうとする。が、どうしてもぎこちなくなってしまう。
「あ、どうも~」
「……………」
…………………。
_____人が、いた。
ジワッ
「あらあら~……どうされました?どこか具合でも悪いのですか……?」
目の前の景色が歪む。
どうしてだろう?
そう思ったところで原因に気付く。
「……うぅ……ひっぐ……」
「あらら~……ええと……クッキー、食べますか…?」
◇ ◇ ◇
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