天ノ河 玉藻 2016-02-02 01:54:26 |
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狐はたまに変な行動を取る。
木を軸にUターンしたり、木と木の間をジグザグに歩いたり。
何を探している風でもなく、ただ純粋に、迷うことなく進んで行く。
何げなしに道を振り返ると、一応は一定の方向に向かって進んでいるようだ。
それはいいとして……
「……」
「……」
さっきの声は何だったんだろう?
まさか、狐が喋るわけはないだろうし……かといって、周りには誰も居なかったし……うーん、謎だ。
* * *
『ついておいで』
* * *
「…………」
声は男。
大人、という感じではなかった。
10代で通る声だと思う。
優しい口調で、僕のような迷子状態の人に掛けるような感じ。
……もしかして、不安で精神が参って、幻聴でも聞いたのだろうか?
「……謎ということにしよう。うんそれがいい」
「………」
……狐はなおも進み続ける。僕はそれに付いていく。
……気のせいかな?僕は人の後をちょこちょこ付いていくのが得意な気がする。
……今目の前にいるのは狐だけど。
しばらく歩いていると、前方に開けた場所があるのが見えてきた。
やった!助かった!
「……………ん?え?」
という喜びも束の間。
見えてきたのは予想より小さな野原。
縦横50メートルあるかないかといった広さの原っぱに、何故かアーチが建っている。古ぼけたアーチは、長い間そこにあるのか、全体に蔦が絡み何とも言えない神秘的な光景を生み出している。
アーチそのものもなかなか凝った造りをしているのだからなおさらだ。
狐は迷いなくアーチの下へと歩いて行く。
僕は相変わらずそれを追う。
「ここ、一体何なんだろ……君は知ってるの?」
「…………」
なんとなく、狐に話し掛けてみるけど、反応はない。
まぁ、当然と言えば当然だけど。
そうこうしているうちに、アーチの下へ到着した。
近くで見てみると案外大きい。4、5メートルはあるんじゃないだろうかという程だ。
狐はそのアーチの前でちょこんと座る。
まるで僕が通るのを待っているかのように。
「……」
「………」
当然、狐は何のアクションも起こさない。
何かこう……もっと動物らしい振る舞いをして欲しい気もする。
耳をピクピクさせたり、尻尾を動かしたり、毛繕いしたり。
「………」
「…………はぁ。まぁいいか」
僕は諦めてアーチに向き直る。
古びていながらも今なお気品を感じさせる佇まい。
質素な、それでいて美しいその姿は、貴族の豪邸にあってもおかしくはないだろう。
「……」
一歩、前へ踏み出す。
そしてもう一歩で、アーチの真下を潜る。
その瞬間、静電気がバチリとなったときのような痛みが、全身を覆った。
「ッ!」
そして、僕は見た。
、、、、、、、、
蒼い光を放つ木々を。
◇ ◇ ◇
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