天ノ河 玉藻 2016-02-02 01:54:26 |
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【第二話】
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前を見ても、後ろを見ても、右を見ても、左を見ても、全て同じ。
木と草ばかり。
森は大きな木が一定の間を開けて佇んでいて、草も申し訳程度にしか這えていため、比較的歩きやすい。
とはいえ、道がないので適当に進む。
「あ~……帰りたいよぅ……」
空を仰ぎながらぼやく。
木の枝と枝の間から雲ひとつない青空が覗いているけれど、僕の心の中はどんよりとした曇天だ。
それはもう、今にも真っ白な雪が降って来そうなほどに。
「……………………………。」
……無言で歩き続ける。
かれこれ一時間はこうしている気がする。多分
そして、僕は思うのだ。
……これ遭難したパターンだよね……?
森の中をあっちこっち行ったり来たりするうちに、元来た道を見失ってしまった。
そして我ながら何を血迷ったか、適当な方向を決めて歩き出して、今に至る。
そろそろ限界だ。特に足が。
近くにあった木に背を預けて座り込む。地面は案外、湿ってはいなかった。
「はぁぁ~……もう無理……誰か助けてぇー!」
………
叫んでみるものの、無論返答なんてない。
静かに吹き抜ける少し冷たい風が、髪を揺らす。
「うぅ……シャミ……ジン……」
知らず知らずに溜まっていた不安が、徐々に染みを作る。
このまま誰にも会えず、家にも帰れず、死んでしまうのではないだろうか?
そう思うと足が震える。
………この震えがただの疲れによるものだと、今は信じたい。
と、その時
____チリン
「っ!」
不意に、音が響いた。
反射的に立ち上がるが、膝が悲鳴をあげる。
もしこのまま走るなんてことになったら、確実に10秒で終わるだろう。
音がしたのは、後ろの方から。
ちょうどある木に身を隠しながら、恐る恐る覗き見る。
「…………鈴?」
見れば、金色に輝く鈴が落ちているのが辛うじて見える。
鈴と一緒に何かあるけれど、ここからじゃ分からない。
とりあえず周りを確認、警戒する。
「……………………………」
一通り見回すが、何も見当たらず。
もう一度鈴を凝視するが、特にコレといった仕掛けなどはなさそうだ。
周囲をなお警戒しながら鈴の元へ歩いて行く。
近付いて分かったけれど、どいやら腕に付けるタイプの装飾品のようだ。細やかな鎖でできたそれには、鈴以外にも何やら青紫色の石が付いている。
「誰がこんなもの……」
もう一度、周囲を見回す。
やはり何もないし、誰もいない。
再び手に取った鈴付きの装飾品に目を向けた。
「ついておいで」
「ひぃっ!?」
突然後ろから声が聞こえて変な声が出てしまう。
っていうか、何!?誰かいたの!?
慌てて後ろを振り向く。
けれど誰も立ってはいなかった。視線を下へ向ける。すると……
「………」
「え?あ、えっ?き、狐……?」
そこにいたのは、可愛らしくちょこんと座った狐だった。
野生にしてはかなりふわふわな毛並みの狐は、猟師に見付かれば速攻で標的にされるだろう。
狐はまっすぐ僕のことを見つめている。
しばらくすると、不意に弾かれたようにきびすを返して歩き出した。
「?」
何だったのだろうか?
そう思いながらじぃっと見ていると、ある程度離れた場所で狐は止まった。そして僕の方を振り向く。
「………」
「……えっと……」
もしかしてこれは、ついてこいってこと、なのかな?
………
「……まぁ……どうせだし、いいよね」
このままただ時間が過ぎるのを待つよりはいいだろうし。
それに、もしかしたらこの狐は誰かに飼われているのかもしれない。
もしそうだとすると、人間に対してここまでの対応ができるのも、あの毛並みの良さも頷ける。
そんな淡い希望を胸に、僕は狐を追いかけた。
◇ ◇ ◇
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