天ノ河 玉藻 2016-02-02 01:54:26 |
通報 |
この村は、村と呼ぶには少し余る大きさだと言える。
けれど、町と言うには少し物足りない。
そんな中途半端な大きさをしている。
まぁ、大きさがあっても別段見るものがあるというわけでもないのが現実だけど。
人口はまぁ、70人以上100人未満程度には人が住んでいると思う。
実際に数えてみたことはない。
多分普通に隣の村とかから人が来てたり、町からここら辺でしか採れない薬草を買い付けに来る商人が居たりして数えるのが面倒になるだろう。
村の人の顔や名前が分からないわけでもないけど、たまに「ああ、そういえば居たんだった」となることもある。
と、それはそれでいいとして、僕は別のことを考える。
……何を考えるか?
決まっている。シャミの魔の手から逃れる方法を、だ。
まず一番簡単な手立ては、走って逃げる。
だがこれは却下。
なぜならその後が詰むからだ。多分、シャミに今以上の仕打ちを受ける。
そうなっては元も子もない。
次に、何か用事を思い出した風を装って逃げる。
……無理だ。
僕には無理だ。絶対に。
演技なんて、できない。
見抜かれて詰む。
次、怒る。
無駄だ。
シャミに勝てるわけがない。
次、シャミの趣味を全面否定する。
これも駄目。
シャミが傷つくかもしれない。
「……ディラ、わかってると思うけど、無駄な抵抗は無駄よ?」
「……そんな頭痛が痛い的なこと言われても……はぁ……」
詰んだ。
以上。
「ほら、そんな暗い顔しない。男のくせして女の子みたいに可愛い顔が台無しなんだから」
「皮肉としか思えないその発言を全面的に否定するから!男のくせしてってなに!?こんな男で何が悪いの!?」
「はーいはい。怒らない怒らない。みんな見てるんだから」
………え?
一瞬にして背筋が凍る。
みんな、見てる……?
「…………。」
恐る恐る周りを確認する。いつの間にか、いろんな人に注目されていた。
「ひゃ……ひゃみ……」
顔が火に照らされているように熱くなる。
シャミのことを呼ぶけれど上手く呂律が回らない。
「ん?気付いてなかった?」
シャミのにこやかな笑顔が恐ろしい。
周りからの視線で肌がヒリヒリする。
顔が燃えそうなくらい熱い。
「まぁ、気付いてないのも無理ないか。アンタ、私の後ろにヒナみたいにちょこちょこくっついて来てたもんねぇ?」
ヒナとは失礼な
けれど実際その通りだ……。
シャミの後ろに付いて考え事をしていたせいで周りにまで気が回らなかった。
つまり、明らかな自滅。自業自得。
恥ずかしい。
それ以外何も考えられなくなる。
走ろう。この場から逃れよう。
…どこへ行く?
知ったことか
「ッ!」
「あ、ちょ!ディラ!」
身を翻して走り出す。
後ろからシャミの声が聞こえるが、当然無視する。
「はぁっ……はぁっ……!」
とにかく、ひたすらに走り続けた。
……そしていつしか、道と言う道を見失っていた。
_________________
【第一話】『疾走、そして失踪』綴
トピック検索 |