天ノ河 玉藻 2016-02-02 01:54:26 |
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【第一話】
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村の一日は、日の出と共に始まる。
大人達は空が白み始めた頃に起き出して、仕事や家事の準備を始る。すっかり明るくなる頃にはもうみんな笑顔で元気に挨拶をし合うのだ。
シャミも例外ではない。
シャミはいつも僕より早起きで、僕が部屋から出て一階に降りると、既に洗濯物を干して朝食の準備も済ませているのだ。
そして起きたばかりの僕に向かって「おはよう、ねぼすけさん」と言う。
シャミは、僕にとって大切な、たった一人の家族だ。
幼い頃から沢山面倒を見て貰ったし、いろんなことを教えてもくれた。
厳しくもあるけど、とっても優しい、自慢の姉だと胸を張って言える。
ただ……
「ディラ、お昼は何がいい?」
「……別に何でもいいよ」
機嫌の良さそうなシャミにニッコリ笑顔で聞かれ、素っ気なく一番困るであろう答えを言う。
僕らは今、買い物に行く途中だった。
天気もいいし、どうせ部屋に籠ってても得はないでしょ、とシャミに無理矢理連れ出されたのだ。
女装姿のままで。
「そんなに恥ずかしがることないじゃない。似合ってるわよ?」
「~~~っ!!」
耳元で囁かれて、顔が熱くなるのを感じる。
きっと耳まで真っ赤になっているだろう。
せめてもの抵抗に、睨み付けるものの、シャミはどこ吹く風といった具合だ。
「落ち着けよディラ。安心しろ、怖いくらい似合ってるから。」
そうこうしていると、不意に後ろから声を掛けられた。
聞き覚えのあるその声に、僕は数秒間身動きが取れなくなる。
それから、ゆっくりと、ゆっくりと、後ろを振り返るが、首が上手く回らず機械人形のような動きになってしまう。
「よ、ディラ。おはよーさん」
「ジ……ジン……お、おはよぅ」
そこに居たのは、ジンだった。
ジン・アグニス
この村で唯一、僕と同年代の友人。
背が僕より少し高くて、焦げ茶色の髪は少し長めで後ろに纏められている。
綺麗な緑色の目が、まるで品定めするように細められていて、居心地が悪い。
「ふむ……はっはは!やっぱり似合う似合う!」
「う、うるさい!」
ジンはいつも僕をからかって遊ぶ。
からかわれるこっちの身にもなって欲しいと思いつつ、普段からの恨みを含めて全力で睨む。
すると、流石にマズイとでも思ったのか、ジンは「まぁまぁ、そんなに怒るな」と言って、ポケットから2つの飴玉を取り出して僕にくれた。
「これで勘弁!」
「物で釣るのは、どうかと思うんだけど」
「そう言いながら飴玉食ってるお前もお前だよ。」
「うっ……」
返す言葉もない、とはこのことろうか。
いつもジンから飴やパンケーキなどを貰ってるうちに、餌付けされてしまったらしい僕の体は、何の疑いもなく飴玉を食べてしまっていた。
「おはよう、ジン。今から狩りにでも行くの?ん、美味しい!」
シャミもちゃっかりジンから飴玉を貰いながら問う。
「ええ。今日は親父と競争するんですよ。もし競争に親父が勝ったら全部の銃の手入れを一月俺がやって、俺が勝ったら、親父の銃を俺が貰う。フェアでしょ?」
あんまりフェアじゃないじゃない気がする。
思わずそう言いかける。が、よくよく考えてみると、ジンのお父さんは銃を多く持ってる筈だ。そのうちのひとつくらい、どうということもないのかもしれない。
「親父の銃全部貰う予定なんで、貰ったら見せてあげるよ。楽しみにしててな、ディラ。」
「全く以てフェアじゃないじゃないか!!」
◇ ◇ ◇
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