雪風 2015-06-07 23:36:40 |
通報 |
僕は仔猫を抱き上げた。
顔が近くにある。目が合う。
ミャァ~
小さな口を精一杯大きく開けて僕に挨拶しているようだ。
「君、見たところ高校生でしょう。何処に住んでいるの、近所?」
女性は立ち上がり明るい声で訊いてきた。
「線路向こうです。ここからは歩いて10分程度です。」
仔猫から目を離して女性を見る。
「あら、線路向こう?君、金持ちの家の子なんだね。」
確かに、線路を向こうの僕の家のある地区は金持ちが多く、立派な家がたくさん建っている。一方この女性の家があるここら辺は雑然としていて小さな古い家ばかりだ。
返答に困る。こんな時、自分を金持ちと素直に認めていいのだろうか?
母が再婚するまでの僕の生活は誰がどうみても貧乏だった。
僕が金持ちになった歴史は浅い。こんな時、金持ちはどう答えるのがベストなのだろうか。
考えている内に女性が先に口を開く。
「あっ、ごめん!気にしないで、思ったことがそのまま口に出ちゃうのよね。よく失敗するんだ、この口は。」
笑いながら女性は頭に手を置いた。
「いえ。まあ……、父は金持ちです。」
つい口から出た言葉は、僕にとって葛藤やら自虐やらが込められている。が、女性には全く関係なく、理解出来ないことだろう。
「ごめんね、本当に気にしないで。」
嫌味を言ってしまった。
きっと女性はそう思ったのだろう。
勘違いをさせてしまい、謝らせてしまったことに少し罪悪感を覚えた。
しかし、次の女性の言葉で僕は安心する。
「良かったね、お前。玉の輿に乗れるかもしれないよ。」
屈託なくそんなことを仔猫に言った。
気にしているのは僕の方だ。
それは兎も角、心に引っ掛かることがある。
それは、
女性は、「玉の輿に乗れるかもしれないよ。」と言った。「玉の輿に乗れるよ。」ではない。
まだ完全に仔猫を僕に託そうとしていないということだ。
「この仔猫、僕は連れて帰っていいんですか?」
女性の心の内を測るためにそう質問した。
すると女性は、こう答える。
「君がこの子を連れて行くことに異論はないよ。両想いだもんね。でもね、この子はすぐここに戻ってくるのかもしれない。」
トピック検索 |