雪風 2015-06-07 23:36:40 |
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「……欲しいの?この子を。」
女性は意外そうな表情を僕に向けた。
「はい。……駄目ですか?」
「う~ん。駄目じゃないけど、さっき言った通りこの子は目が見えないのよ。」
「ええ……聞きました。」
「君、猫を飼ったことあるの?」
「ありません。」
「最初に飼うのは、この子のような目が見えない猫じゃない方がいいと思うよ。直ぐには無理だけど、この子の母猫はまた産むだろうから、次に生まれる子達の中の一匹を君にあげる。元気の良い子をね。連絡先を教えてくれる?生まれたら一番に電話するから。」
そう言って女性は仔猫をゆっくりと地面に下ろす。
そして、左手一つで仔猫の自由を奪っている。仔猫が動かないよう押さえつけている。
ジタバタするが、仔猫は小さく力がない。出来ることは、
ミャァ~
と細い鳴き声えで女性に抗議の意思を示すのがやっとだった。
そして右手の方は、
エプロンのポケットに手を入れ、携帯を取り出していた。
どうやら僕の電話番号を自分の携帯に登録するつもりの様だ。
あまり後先考えず行動するタイプに感じた。
電話番号を訊かれるより先に僕が口を開く。
「僕は猫が飼いたいんじゃないんです。
」
「えっ?」
僕の言葉に女性は少し驚いたようだ。
それでなのか、拘束していた手が緩み仔猫は解放された。
それでもさっきみたいに走ることはなく、女性の周りをうろうろする。
「猫が欲しいなんて思ったこと、人生で一度も無かったんです。ついさっきまでは……」
言葉を切ったが女性は何も言わない。次の僕の言葉を待っている。
「だから、この仔猫なんです……。他の猫では駄目なんです。この仔猫がいいんです。大事にします。お願いします!」
そう言って女性に向かって頭を下げる。
下を向く僕の視界に仔猫が入ってくる。僕の足元にすり寄る。
「ありゃ、この子も君を選んだか。相思相愛ね。」
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