雪風 2015-06-07 23:36:40 |
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「そうだろうね。その気持ち、分かるよ。飼いたいと言いながら飼えなかったら、あたしと顔を会わせるのは躊躇するのは当然だと思うよ。」
女性は人を否定することをしない。
そんな人何だと思う。
僕の心がわずかに救われる。
そして、振動がないように仔猫を抱きながら女性の隣に座った。
「ねえ……。」
「はい……。」
「この子さ……。」
「はい……。」
「あまり長くないと思うの。」
「はい……」
それは僕にも解った。
「だから、またこの子に会いに来てほしいのよ。……なるべく間をおかずに。」
仔猫にはそんなに時間がない。
日数を空けてしまうと、もう会うことは出来ない。
そういうことだろう。
「また明日来ます。これから毎日来ます!」
女性は微笑む。
「ありがとう。長い時間いろとは言わないからさ、この子に少しでも顔を見せてあげて。」
実際には僕の顔は見えないだろうが、僕は頷く。
「そうします。」
僕は目線を下に向けて仔猫を見る。
首を捻って僕を見ている。
黒い大きな瞳が僕を見ている。
「きっと、君の顔は見えてるんじゃないかな。」
女性が僕の心を見透かしたかのような言葉を口にした。
「ミャア~」
小さな声で一声鳴くと、仔猫は僕の腕に頭をもたれて、そのまま寝てしまった。
「君に会えて安心したのかね。いつもより穏やかな顔して寝てる。」
暫くそのまま仔猫を抱きながら女性の隣で座っていた。
夜風が出てきて気持ち良かった。
女性は何も喋らず、僕も言葉を発しなかった。
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