雪風 2015-06-07 23:36:40 |
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さらに結衣が叫ぶ。
「あなたがお母さんとして此処にいたら、本当のお母さんが帰って来られないじゃない!出ていってよ!早く!」
「結衣!本当にいい加減にしなさい!」
お父さんも大きな声を出している。それに構わず結衣が喚く。
「出ていけ!あいつを連れて出ていけ!」
僕の行動が止まる。そして僕の思考が始まる。
結衣だって苦しんでいる。
僕が、お父さんから結衣の生母について聞いていることは、他に好きな人が出来て家を出ていった、ということだけだ。
あまり考えなかったが、結衣にとっては生母に捨てられたという認識だろう。
しかし、それを認めたくないと考えるのは当然だと思う。
それを認めるには結衣の年齢では辛すぎる。
ならば本当の母親が帰ってこないのを新しく来たお母さんのせいにするのも頷ける。至極当たり前の思考と言える。
何故こんな展開になっているかの?
きっと僕が仔猫を飼いたいと話した流れからだろう。
お父さんは、結衣の僕への言動をたしなめたのだろう。
お父さんのことを誤解していたらしい。
ちゃんと叱ることがあるのだ。
お母さんは今どんな思いだろう。
どんな表情をしているのだろう。
辛い思いをしているのは当然。
もしかしたら目を赤く腫らしているかもしれない。
僕は僕の出来ることをしよう。
そう思った。
僕の出来ることとは、僕のことでお母さんを煩わせないことだ。
この家の中で僕が萎縮することや卑屈になることはお母さんを苦しめる。
間が悪いことは承知の上で、鍵穴に鍵を入れてドアを開けた。
堂々と、
「ただいま!」
と言ったその時、お父さんの怒声が響く。
「いい加減にしなさい!そこまで我が儘言うならお前が出ていきなさい!」
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