雪風 2015-06-07 23:36:40 |
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そう。
居心地の良い場所だった。
お母さんは忙しくあまり家に居なかったけど、寂しくはなかった。女手ひとつで僕を育てるために頑張ってくれているのだから寂しく思うはずがない。
それに、貧乏暮らしで欲しい物はなかなか買ってもらえなかったけど、家の中で誰かに気兼ねする必要はなかった。
前の暮らしに特に不満はなかった。
お母さんが再婚を口にした、あの日のことを僕は思い出す。
「実はね、再婚しようと思うの。」
お母さんがそう切り出したのを覚えている。
反対する気持ちは全く無かったが、突然の告白で何を言えばいいのか解らず少しの間沈黙してしまった。
お母さんは、黙っている僕の顔色を伺っていた。反対されるかもしれない、という不安があったのだろう。
早くお母さんを安心させようと、努めて明るいを出した。
「おめでとう!」
それが選び抜いた言葉だった。
「気が早いわね。まだ考えてる段階よ。」
お母さんは安堵したらしく笑った。
お母さんを安心させることができてホッとした。
あの頃、お母さんが再婚することで状況がここまで変わるとは想像していなかった。
自分は新たな家族から疎まれるかもしれない。居場所がなくなるかもしれない。
そんな考えが全く頭をよぎらなかった訳ではない。
だけど、その時はその時だと思った。
そうならば高校を卒業したら家を出ればいいや……
そんなふうに軽く考えていた。
もちろん、こんな状況なので卒業後は家を出るつもりでいる。
だけど、卒業までの数ヵ月間がこんなにも長く感じるとは思わなかった。
僕は時間の流れのスピードを甘く見ていた。
長い……
そう思う。
新しい家は僕にとって帰りたくなるような場所ではなかった。
歩きながらも、マイナスな思考が僕に襲いかかってくる。
突然、ふと思う。
僕は何て愚か者だろう。そして、自分勝手だろう。
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