雪風 2015-06-07 23:36:40 |
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それが解っても、この家を出ることを止められなかった。
「大丈夫!」
そう言い残して玄関を出た。
そして、直ぐに走り出す。今はこの家から一刻も早く遠ざかりたかった。
僕のこの態度がお母さんを哀しませてしまうことは十分に解っていた。
だけど、結衣のいる家のお風呂にのんびりと浸かる気になるほど、僕の心は鈍感にできていない。
だけど、お母さんを傷つける僕自身の行動が、さらに自分を苦しめる。自分を責める。
負の感情が渦巻いている。
そう感じながら門を出て、暫く走った。
雨はやんでいた。
疲れたわけでもないが、速度を落とし歩くことにした。
「荷物を母屋に置いてきちゃった。」
少しばかり乱れた呼吸の合間に独り言が出る。
お母さんには、猫を貰うことを断りに行くと言ったが、本当はずくに行かなくても良いことだ。
それどころか、飼えないならば別に断りを入れずにそのままにしても良いのだろう。
何故なら女性は、
「親御さんが飼って良いと言ったらまたおいでよ。」
そう言ったのだから。
猫を飼うことはできない。
だから行く必要はない。
さて、何処に行こうか……
そう考えた。
行くあては全くない。
家を出て適当に突き進んだ結果、最寄りの駅方面に来ている。
お腹が空いているわけではなかったが、駅前のファーストフード店に行くことにした。
この後、僕はいづれ家に帰る。しかし、時間をおかなければ帰る気にはならないだろう。
時間潰しをする場所が他に思い当たらなかった。
大きな家の並ぶ住宅街を駅に向かって行くと、帰路を急ぐ人達とすれ違う。
そんな人達を見て、家とは帰りたくなる場所であることが普通なんだろう、なんてことを考える。そして思い出す。
お母さんが再婚する前、僕は小さな家賃の安い借家に住んでいたが、その時は僕も家が心地良い場所だったことを。
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