雪風 2015-06-07 23:36:40 |
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この空間の居心地の悪さはいつものことだが、今日はいつも以上だ。
そう感じるのは、お願いをする僕の立場のせいだろう。
二人が振り向く。
結衣は僕を一瞥すると露骨に嫌そうな顔をして、テレビの方に顔を戻してしまった。
結衣の行動は僕の予想を外させない。
「おお、お帰り。しかし、お邪魔します、は無いだろう駿太君。君の家なんだから。」
お父さん明るくそう言った。
が、何ともわざとらしい。
無理やり明るい声を出しているのが見え見えだった。
結衣が僕を拒絶する姿勢でいる以上、お父さんの明るさは虚しくなるだけだ。
「済みません。」
謝る僕にお父さんは、
「まあ、いいさ。ところで話って?こっちに来て座りなさい。」
と、自分の隣のソファーに座るよう促す。
「いえ、服が濡れているんです。ソファーも濡れてしまうので、ここで話します。」
「ならばお風呂に入って着替えてからの方がいいんじゃないかな。」
「大丈夫です。早く話をしたいんです。」
僕は長居をするつもりはない。
「そうか。分かったよ。では遠慮しないでソファーに座りなさい。立ってては話なんて出来ないよ。」
とにかく座らないと話は進まない様だ。
仕方なく濡れたままだがソファーに掛ける。
結衣の遠慮ない溜め息が部屋の中に響く。
結衣の横顔が見える位置に僕は来ている。不機嫌そうな表情だ。
そこへお母さんが表れる。部屋に入ってきてお父さんの隣に座った。
「実は仔猫を飼いたいんです……いいですか?」
自分でも知らぬ間に下を向いていた。
どんな判決が下るのか。
緊張を感じる。
しばしの沈黙の後、
「いいんじゃないかな。」
と、お父さん。
僕は顔を上げる。
「いいじゃないか。駿太君が飼いたいなら反対する理由なんかないよ。」
お父さんはニコやかにゴルフクラブの手入れをしながら言った。隣ではお母さんはホッとした表情があった。
「ありがとうございます。」
僕は頭を下げた。そしてハッとする。肝心なことを言っていなかった。
仔猫は目が見えないことを。
「あっ!実はその仔猫は……」
僕の言葉を結衣が遮る。
「嫌よ!あたし。反対!」
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