匿名ゆき 2014-11-23 17:15:10 |
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嗜好について2
[]内の部分に触れていきます。
主人公、最初は不倫していた少女を追い出せて清々したと満足しているんですね。
それはもう、自分の理想の妻とかけ離れ、挙げ句の果てに自分以外の男性と関係をもっている訳ですから
主人公は堪えられなかった思いを、ありのままに表現できてすっきりしたことでしょう。
だが主人公の脳裏には少女が去り際に見せた、恐ろしくも美しい表情が焼き付いていました。
さぁ数時間経った。
主人公の中で生じた葛藤をどうして私ごときに説明できようか。
この部分に関しては、本当に作品を読んでいただきたいのです。
主人公、今度はとてつもない後悔に襲われます。
何故俺はあの少女の表情に屈服せず追い出すことができたのか。
どう考えてもあの瞬間の俺は間違っていた、あの少女を手放すべきではなかった。
どこからともなく「お前は取り返しのつかないことをした」という声が聞こえる。
家の中を落ち着きなく歩き回り、少女の影を追うように少女が着ていた服を眺めたり
一緒に撮ったアルバムを眺めたり
さまざまな奇行にまで至りました。
少女の不在に耐えられなくなり、少女を探し始めますが全く見つからない。
以前少女と関係を持っていた男にまで捜索依頼をだすが、見付かる気配がしない。
主人公は途方に暮れて、少女のことを忘れようとしていましたが…
少女は突然主人公の家へ戻ってきました。
何の用だ、と問いただすと
「服を取りにきただけよ、それぐらいいいでしょう?」
どうやって家に入った、と聞けば
「合鍵をつかったのよ」と。
去り際に「32日後にまた来るわ」と言い残して少女は去っていった。
さて、この応酬。
文には書かれていませんが、本当に気がないのでしたら合鍵などその場で奪い取るべきですね。
気があるからこそ、主人公は少し大きな態度で接しながらも少女を突き放すような言動はださなかった。
事を荒げて来訪の機会を無意識か故意か…手に入れようとしていた訳です。
再び少女は訪れた。
どこか前より美しくなっているように見える。
服をもって帰るだけなのですが、少しだけ長居して主人公を困らせます。
次第に気持ちが寄り始めて主人公は「前の関係に戻らないか」と提案しますが
少女は顔を近付け目を閉じさせると、唇に息を吹き掛ける。
「これが友達のキスよ」と少女は主人公が後に残された吐息を吸い込む姿を楽しそうに見ている…。
時には彼女の挑発的態度に耐えられずに壁に頭を打ち付けたりもしていた。
そんな苦悩にうち震える日々のなか、少女に顔を剃るよう頼まれた。
ただし条件付き。
「体には触れちゃ駄目よ」と。
「腋もお願い…」と頼まれた時には主人公も猛りの声をあげて
少女の肩に文字通り噛みついた。
「お願いだから、もう許してくれ」と懇願し
四つん這いになり「昔のように馬の上に乗ってくれよ」と…。
少女は最初驚くものの、ひょいと乗り上げて
「これでいいか」と聞いたのち幾つかの質問を続ける。
「私のために尽くすか」
(細部まで覚えていないのですがこのような質問に対して全て少女の理想通りの回答をしています)
最後に「私が去ってしまった後はつらかっただろう」と囁く。
谷崎潤一郎のある種魔術的な文を書くことは出来ないため、話を追うことで精一杯になりました。
この話をどう捉えるかは、読者次第ですが
この苦しみと喜びを同時に表現できるのは谷崎潤一郎ぐらいしかいないでしょう。
彼は様々なメディアで紹介され今日、多くの評価を得ておりますが
単に彼は書きたいものを緻密に書き上げただけですよ。
思想があるかないか、そんなことは全く関係ない。
感情移入させる天才であると思います。
この技術も自分のものにしておきたいですね。
僕としては苦しみと喜びの方が染み付いてしまったかもしれませんが…。
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