ハナミズキ 2014-08-20 16:01:01 |
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陵武館に戻ってみると、当然のことながらイアンに勝てる相手など誰も居なかったようだ。
一通り見学が終わると陵武館を後にし、街の中にある店を見ながら散策した。
するとサラが突然立ち止まり、一軒の薬剤店に入る。
普段ならなかなか手に入らない、珍しい薬草が所狭しと陳列されている。
必要な物を必要な分だけ購入し、嬉しそうに、少女の様な笑みを浮かべて、購入した品物を大事そうに胸に抱きかかえながら歩きだす。
イアンはそんなサラを見ながら、なんと可愛らしく、愛くるしいのかと、恋心が日に日に大きくなっていった。
この人を独り占めしたい。
この人に、家族のようにではなく、異性として愛されたいと、そう思う気持ちは日を増すごとに大きくなっていく。
サラにとっても、これほど長い年月を、誰かと一緒に寝食を共にした事はなどなかった。
今まで気の遠くなるような人生の中で、こんなに楽しく、誰かを愛おしいと思った事も無かったのだ。
それだけサラは誰にも気を許してはいなかったのだった。
イアンが魔力のコントロールも大分出来るようになり、いつでも城に戻ってもいい状態なのに、いまだ城には戻ってはいない。
これがサラにとってどういう意味を成しているのか、サラ自身もまだ気が付いていなかった。
荷物を抱えながらぶらぶらしていると、町外れに小さな武術館を見つけた。
塀の上から首だけ出すように中を覗くと、先ほどの大きな武術館とは違い、身形が少し貧しい者たちが訓練をしていた。
指導している師範と思われる人を見ると、そこには見覚えのある顔が立って居た。
「サラ、あれはデニマール大将じゃないか?」
「ええ、そうね。
彼は、先々王との約束を果たしたから、その望み通りここで剣術と魔術を教えてるのよ」
「先々王と言うと、母上か?」
「そうよ。私もその場に立ち会ったから間違いないわよ」
「でもなんでデニマールの様な優秀な武官が・・・辞める必要はないんじゃないか?」
「それはね、むかし、私があなたのお母さんの付き添いで、マルチ大陸の王に
会いに行った時の事なのよ。
当時のその大陸は随分と荒れていてね、人々の暮らしもとても貧しかったの。
力の強い者は力の弱い者を奴隷のように扱っていたり、人間なんて家畜同然の扱いだったわ。
あなたのお母さんは、マルチ大陸から逃げてきた人にその話を聞いて、その大陸の王に会いに
行こうとしたんだけど、他の大陸の王が、自分の大陸でもないのに勝手に意見する事が
出来ないのよ。
唯一できる者が居るとしたら、それはこの世界を作った私だけだったの」
イアンは真剣な表情をして聞いていた。
「マルチ大陸に行ってみると、それは酷いありさまだったわ。
痩せ細った土地、干からびてる川は湖、人々は飢えと乾きで何人もの人が死んで
そこら辺に死体が転がってた・・・・」
「その王はどうなったんだ?」
「任されてた土地も満足に面倒を見れない王など必要が無いから、消えてもらったわよ?」
真顔で言うサラを見つめながら
『・・・・鬼だな・・サラは・・』と思っていた。
「しばらく私がその大陸を代理で納めて、次の魔王の資質が有る者が現れてから交代したのよ。
その間、両親を亡くして身寄りのない子供たちを、あなたのお母さんに預けて、マルチ大陸の
治安や内政、その他もろもろが安定したら、子供たち本人にどちらで暮らしたいか決めさせて
生活もちゃんと出来るように手配して、ある一定の年齢になってから帰したのよ。
デニマールはね、その子供の一人なの。
物凄く才能のある子だったから、王室付きで働いてもらう事になったのよ」
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