ヒビヤ 2012-08-22 00:19:39 |
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■『メカクシコード』
予定通り、8月15日の11:00に『実験都市』の裏門は開いた。
メカクシ団は二十数名の集団だが、今回の作戦では、『人造人間を救い出す』グループと、
『成功個体を救出するグループ』に別れる。
『人造人間』救出には、カノと同じく『メカクシ団副リーダー』であるレベッカが命じられた。
彼女の持つ能力『チーム』は本来、軍用犬の集団を統率するのに有用な能力だが、
『人造人間』を『発見』、『救護』し、『運び出す』という一連の作業を監督するには、
彼女が適任という事になった。
「じゃあ、レベッカ、頼んだぞ」
小さく頷き、レベッカと二十人程度の『メカクシ団』が『実験都市』の方へと向かっていく。
残された数名が、『成功個体』を奪取するグループである。
『メカクシ団団長』キドがリーダーを務め、キドのパートナーが黒髪の少年『ジャン』、
このメイン二人組の補佐として『メカクシ団副リーダー』のカノ、
最近正式加入したマリーの二人組が配置されていた。
『ブレイン』のルリと、『天才少年』であるトガには今回は、
『後方支援』を担当してもらう事になった。
とはいえ、『後方支援』は今回の作戦の『成否』を直接左右する重要なポジションだ。
キドは裏門から、ゆっくりと『研究施設』に向かって歩みを進める。
その後に静かに残りの三人が続いた。
針の先に糸を通すように慎重な動作が求められると俺は考えていた。
俺という自称と外見から、何故か良く勘違いされるが、俺は女だ。名はキドと言う。
今回の作戦で絶対に誤ってはならない点は基本的に『白衣の科学者』と正面向かって戦えば、
俺達に勝ち目はないという事だ。
まあ、目の前に大した筋力もない『白衣の科学者』が一人いるというシュチュエーションならば、
俺は瞬速でそいつの意識を『落として』やれるが、そういう意味ではなく、
抱えている武装や兵士に圧倒的な差異があるという事だ。
気付かれて、『人造人間の兵士団』を送られた場合、
私達の『存命』はかなり厳しい物になる事を、他の団員も察している筈だ。
幸い、俺の能力は『敵の探知』にはかなり優れている。
俺単体の時の能力名は『サーチ』という物だ。
周囲にいるメカクシ団、『人造人間』、『白衣の科学者』の位置を俺は知る事が出来る。
この『察知』にはそれぞれ異なる設定付けがあって、例えば、メカクシ団ならば、
俺が『団員だ』と認定した瞬間に、ソイツの位置を感知出来る。
『白衣の科学者』は常に『情報伝達妨害パルス』とでも呼ぶべき、
いわば『盗聴盗撮を防止』するような電磁波を身にまとっているので、それを目印とする。
『人造人間』に付いては、魂の総量が人間より多い彼らの『気配』はやはり特徴的であるので、
そこから判別する。
俺たちは『潜行』するように息を殺し、段々と『研究施設』へと近付いていく。
『人造人間兵士団』とも何度かすれ違うようにしているが、この時点では気付かれた様子はなかった。
――だが。
「お前らさ、『人造人間』の為に、何そんなにマジになっちゃってんだよ」
俺は唐突に現れた金髪の男に、一瞬対処を忘れた。
――どういう事だ?! コイツも白衣の科学者の一員なのか?
俺の『能力』の情報が『白衣の科学者』に漏れている事は有り得ない。
だとしたら相当の『強者』が敢えて、『敵に位置を教える可能性のある』パルスを切った上で、
俺達に接触してきたのか――?!
半ば混乱の中にありながら、俺は一瞬で金髪との距離を詰め、その首筋に一撃を食らわせた。
あっさりと昏倒する金髪。
「あれ?!」
想わず素っ頓狂な声を上げてしまう俺を、カノが笑った。
「キドキド。要するにソイツ、『情報伝達妨害パルス』も与えられてない、
末端の中の末端だったんじゃない?」
「そういう事か……」
焦って損をした。それにしても、流石に末端といえど、『白衣の科学者の一員』だ。
なかなかに胸糞悪い事を言うじゃないか。
今日だけは『募集人数は無制限で、募集要項は無条件、
服装も自由』で『メカクシ団』は『募集』を掛けている。
それは『例え、どんなに傷付いていても、どんな格好であっても、どんな人間であっても、
人造人間を無条件に救い出してやる!』という私達の誓いである。
「どちらにせよ、お前に『参加資格』はないな」
俺はそう皮肉を吐き捨てると、すぐさまその場を後にした。
やはり金髪との接触が不味かったのか、『実験都市』内で赤い警告灯が灯り始めた。
妨害音波のような物が耳元で鳴り始める。俺たちはアイポッドからヘッドフォンを繋ぎ、耳を覆う。
流すのはルリが製作した『クリエイティブ・ビート』と呼ばれる音楽だ。
人間のBTI係数を引き上げ、『超能力』に目覚めさせる効果がある。
俺たちの『超能力』は取り敢えずは完成しているから、聞く意味は実はあまりないが、
やはり聞いていると『超能力』の調子が安定する。
それにかなり快い音楽なので、『妨害音波』を上手く紛らわせてくれそうだった。
俺は『後方支援』のルリに、一言短く頼む、と言った。
「分かったわ」
「例の件はどうだ?」
「予定通り、『目を隠す』わ。11:30ジャスト」
「あと10分か。了解した」
まず俺が短く『頼む』と伝えたのは、俺達の位置の誤情報である。
おそらく金髪との接触で俺達の位置は『白衣の科学者』に漏れた筈だ。
同時にルリに『ハッキング』を仕掛けてもらい、俺達の位置情報を消してもらうと共に、
数個のダミー位置を表示させるように頼んだという訳だ。
それと、あと10分で発動するのは、今回の作戦の『肝』である大規模な『要素』だった。
俺たちはこれを上手く活用し、『成功個体』を救出しなければならない――。
『研究施設』は不気味な程スムーズに潜入出来た。
しかし、考えてみれば、一度でも本格的な戦闘になれば俺達は『終わり』である。
スムーズでなければ困るのだ。それに、『終末実験』は既に終了している。
勿論、俺達の本来の意図は『失敗』に終わってしまった訳だが……
期せずして『白衣の科学者』の隙を付くという事には成功したかもしれない。
丁度その時、『実験都市』のネオンがまるで『ブレーカーが落ちた』かのように一気に消灯した。
11:30ジャスト。ルリの手腕による、これこそが秘策。『目隠し完了』。
俺達はそれまで被っていたパーカーのフードを脱ぐと、お互いの顔を確認し、
静かに笑みを浮かべた。
「本当に、俺達、悪くないメンバーだよな」
「あったりまえじゃん、キド」
「そりゃあそうさ、何せ僕達は『正義の味方』なんだからね」
ちょっと冗談めかして言うジャンに、
「わ、私も頑張ります!」
マリーが小さく握りこぶしを作る。
『研究施設』に『潜入』する。ルリのくれたデータによると、
どうやら『成功個体』は一科学者の『研究室』にいるらしい。
10分しない内に、俺達はその『研究室』に着いた。
中に入ってみると、『手術台』のような物がいくつか置かれ、
まるで『人体実験』をするかのような設備だ。
丸い筒型の水槽が幾つか置かれており、
その内の一つに明らかに死んでいると分かる少女の死体が浮いている。
それらを俺はライトで照らしながら確認した。
「あれが成功個体――電脳化を止めるのはやはり間に合わなかったか……」
俺が苦々しく呟くと、
「こっちに来たのか……君達が侵入者だな?」
照らしてみると、それは年若い『白衣の科学者』だった。
ここで一番厄介なのは、コイツに『ガード』としての『人造人間兵士団』を呼ばれる事である。
俺が動こうとしたが、その前に寧ろ悠然とした大股で、
カノが堂々とした感じでその『白衣の科学者』に向かって踏み出していた。
「あの馬鹿……」
まるで緊張感という物が欠けている。
「本当、君たちは何なんだ?! せっかく『終末実験』も終わって、
僕達の研究もこれからって時にさ、ねえ、君ら本当に人の邪魔して楽し――」
『白衣の科学者』は最後まで言い切る事が出来なかった。
何故なら、カノが頭部を凄い勢いで殴ったからである。
近づく様も拳を振り被るモーションも俺にははっきりと見えていたが、
『白衣の科学者』にはまるで『見えてない』かのようだった。
それがカノの『能力』の一端である。
「取り敢えず、非力な『科学者』だけで安心した、って感じかな? キド」
「お前なあ……」
「俺に怒ってる場合じゃないでしょ?」
「分かってるよ、分かってるけど、お前といるとどうにも緊張感が……」
俺達は、その『研究室』の唯一のパソコンに近づくと、
そこには緑色の髪のツインテールの女の子の姿があった。
芯の強そうな瞳に涙を浮かべる彼女をメモリースティックに移すと、
俺達はすぐさま研究施設からの脱走を開始する。
このまま作戦完了といけば良かったのだが、そうは問屋が卸さなかったらしい。
研究施設の外への扉を開けようとするカノに、俺は『待て!』という命令を送った。
カノはすぐにその手を引っ込めた。
俺はジャンと二人組み(ツーマンセル)を組む事が多いが、
その理由として大きいのが『能力の相性の良さ』だ。
ジャンの能力は『アシスト』と呼ばれる物で、
他人の超能力に何らかの力を添加したり、強力にする効果がある。
ジャンが俺の『サーチ』に『アシスト』を掛けると、俺の能力には『オーダー』が加わる。
『オーダー』の能力は、『周囲のメカクシ団団員の全ての思考を読む事が出来る』事、
『周囲のメカクシ団の脳内に直接命令を送る事が出来る』事の二つだ。
俺の元々の能力『サーチ』で、
周囲の『メカクシ団』『人造人間』『白衣の科学者』の位置はそれぞれ知れる訳だから、
その能力と『瞬時な命令』を送れる『オーダー』の掛け合わせはなかなかに強力である。
今回も私が『サーチ』により外にいる『白衣の科学者』を察知し、
『オーダー』により、カノに待ったを掛けたのである。
「外で待ち構えている奴がいる」
「じゃあ、キド。いつものパターンで」
「今回はマリーにもちょっと力を貸してもらうぞ」
「わ、分かりました!」
「ねえ、僕は?」
「お前は『アシスト』を私に掛けたままじっとしてろ」
「ちぇ、いつもそれじゃないか、キド……僕も戦いたいのに……」
「こんな時に駄々を捏ねるな! 遊びじゃないんだぞ!」
扉を開け放つと、俺はすぐさま飛び出す。待ち構えていた長身の男は何故か神父服を纏っていた。
距離を詰めて放った、俺の渾身の右ストレートは難なく躱された。不味いな……。
『白衣の科学者』ではあるが、コイツはかなり身体能力が高いタイプだ。
しかし、俺は一人ではない。
一対一ならば負けるかもしれないが、今回は確実に『勝ち』を取らせてもらう……!
神父のジャブはかなり小刻みで、かつ重かった。
俺はパリィを連続させ、次々と攻撃を受け流していく。
しかし、次第に劣勢になった。体格差、性差、何より単純にコイツはかなり強い。
俺は大振りのハイキックを繰り出す。神父は後ろに飛び退き、距離を取った。
「なかなかやるじゃないか……しかし、まさかお前が賊のリーダーなのか?
そうして見る逆に些か頼りないようではあるが……」
神父は悠長に喋っている。その『隙』が生命取りだ……。カノは既に神父の背後を取っていた。
カノの能力は視覚を欺き、誤魔化す『トリックアート』である。
彼は自分自身を見る『他者の視線』に偽装された映像を映し、
更には、まるで『透明人間』になったかのように気配を消す事すら可能だ。
カノは「あっち向けこっち!」とか訳の分からん巫山戯た事を抜かしつつ、神父の首をぐいん、
と捻じ曲げた。『顔の向き』が変わり、つまり『視線』が『移動』する。そしてその先には――。
「今だ、マリー!」
俺が合図すると、マリーの前髪がうにょうにょと蠢き、彼女の目がより『紅く』揺らめく。
――『石化の魔眼』。
本家メドゥーサのように『完全な石化』は出来ないらしいが、『身体が硬直する』位でも、
今の戦況は完全にひっくり返る。
俺はびしり、と固まった神父へとゆっくり歩み寄り、強烈なアッパーカットを見舞う。
数秒後の滞空の後、神父が地面に崩れ落ちた。念の為、俺はその頭を思いっ切り蹴っ飛ばした。
これで間違いなく意識は消し飛んだ筈だ。
「お前の敗因は己の『力の過信』だ……
『人造人間兵士団』を呼べば、俺達にはどうする事も出来なかった」
俺は最後に『決め台詞』(?)のような物を言い放ち、『キマッた……』と内心で自画自賛しながらその場を後にした。ジャンは「格好良い!」と喜んでいたが、
カノは『駄目だコイツ……』的な白けた視線を送ってきているのが分かる。
マリーは……まだ付き合いが浅いので反応が読めん。
俺達はその後も『人造人間兵士団』に遭遇しないよう、細心の注意を払いながら来た道を戻ったが、『兵士団』は『研究施設』の混乱の対応に回ったらしい。
『裏門』付近に至ると、レベッカ達と合流した。
助けられた『人造人間』は約三十名――他に生存は確認出来なかったという。
苦々しい感情は勿論強く浮かび上がろうとする。しかし、『失敗』したのは俺達である。
寧ろ、k-07という脅威から、三十人近くも生き延びてくれた事に、俺達は喜ぶべきかもしれない。
『裏門』から外に出る。そこには大型トラックを運転する、ルリが待っていた。
助手席にはトガの姿も見える。
「無事で、本当に良かったわ……」
今にも泣きそうなルリに、
「ああ、本当にな……」
と俺は端的に答える。
荷台に『人造人間』達を詰め込み、俺達メカクシ団もかなり狭いが荷台に一緒に乗り込む。
徐々に距離を離し、遠くなっていく『実験都市』――。それを眺めながら、俺は頭の中だけで呟いた。
――――『任務完了』(ミッションコンプリート)。
その時、カノが珍しくおずおずとした声で俺に尋ねてきた。
「ねえ、キド、実はさっきから凄く気になってたんだけどさ――」
カノが無遠慮に誰かの事を指さした。
「彼女って一体どちらさま?」
その先には、俺がこれまで一度も見た事のない、鮮やかなライムグリーンの髪の少女がいた。
――彼女は目を潤ませながらこう言った。
「お願いです! 私をコノハに会わせて下さい!」
――――『任務完了』……………………(?)
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