ゼロ 2012-08-12 16:50:55 |
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第六話 海に浮かぶ新月、生命ある者へ
高速で射出される大質量の鉄塊は、巨龍の剛角を半ばから砕き折った。
60メートルにも達しようかという巨躯が大きく仰け反る衝撃は、凄絶と言うほかない。
「ナバルデウス!大丈夫か!?」
力無く海中を漂うナバルデウス。放っていた赤い光も弱まっていく。
元より、一か八かの賭けだったのだ。
脳を圧迫している角にこれほどの衝撃を加えれば、ただでは済まない。
そして…海底遺跡は、ついに光を失った。
村の危機を救う事は出来たが失意に暮れるフェイタリス。
「結局これは儂の過ちじゃな…」
一方、カヤンバは何かを見つけた。
「何かがこっちに来てるっンバ」
闇に閉ざされた海の底から、蒼黒い光が猛スピードで近づいてくる。
それはフェイタリス達を横切り、ナバルデウスに取り付いた。
「今のは…竜、か?」
蒼黒い光が微かに明滅した後、咆哮とともに周囲に激しい電光が撒き散らされた。
その『闇の雷』とも言うべき激光の中心に見えたのは巨大な竜。
「あれはまるで…黒いラギアクルスっチャ!」
放電が治まり、黒の王は深淵の底へと帰っていく。
変わって辺りを照らすは穏やかな青の光だった。
海中を急速に浮上するフェイタリス達。
「のう、お主、冥い雷を従える黒い竜を知っておるか?」
―わからない、永く生きていても知り得ない事もある―
「永く生きていても、か…全くもってその通りじゃのう」
―だが彼の者とも既に、何時か何処かで出会っていたのかもしれない―
「運命とはそういうものなのかもな」
「もうすぐ海面に出るっチャ!」
「手を離すっンバ~!」
海上に飛び上がり、その全容をあらわにする白い巨龍。
日が沈みかけた空を舞うその姿はさながら昇る月のようだ。
片角の龍は幻想的な青の光を放ち、見る者を魅了する。
大海龍ナバルデウスの大ジャンプを、モガの村人全員が目にした。
翌日
「フェイタリス、チャチャ、カヤンバ、本当によくやってくれた!重ね重ね礼を言おう
お前さんらの名は、この村の英雄として語り継がれていくだろう」
「この子達はよしとして、儂の事はよせと言っておろう
儂は橋渡しをほんの少し手助けしたに過ぎんのじゃからな」
「そうっチャ!
コイツはほんのサポート、大活躍したのはこのオレチャマなのだっチャ!ブッブッブー」
「ダァー!チャチャもフェイタリスも大した事ないっンバ
お前達の活躍はワガハイのミラクルアドバイスのおかげなのっンバ~!」
「これこれ二人とも…」
「ブン!…まあでも、コイツらも少しは役に立ったから褒めてあげてもいいっチャ」
「ワガハイもちょっとは評価してやってるンバ
案外優秀な弟子達なのっンバ」
「カッハハハハ!こやつらもちゃんとわかっておるようだな、一人の力で闘ったのではないと」
「そう、この勝利はそれこそ、この村全員のものであり、そしてモンスター達のものでもあるのじゃ」
「なるほど、モンスター達も、か
人間もモンスターも自然の一部
共に生きる者として、どちらか片方だけを尊重し、片方をないがしろにしてはならんな」
「この村の者達なら大丈夫じゃよ
自然の恩恵に感謝し、自然の脅威に畏怖し、向き合って生きていく事を知っておるからな」
「村の主役である狩猟船を三度も足代わりに使えるなんてよ、お前ぐらいなもんだぜ」
「光栄に思っておるよ」
団長の船に乗り込むフェイタリス。
村人達も彼女の旅立ちを見送りに集まっていた。
「行ってきな!
ウチの魚が食べたくなったら何時でも来るんだよ」
「お姉さん、行ってらっしゃい!
またお話しに来てねー!」
「大海龍の報告は私がなんとかしておきますから安心してください!」
「オマエはオレチャマの子分だから、もしまた会った時も面倒を見てやるっチャ」
「ワガハイの弟子である事も忘れてはならないっンバ~」
「うんむ、行って参れ!
お前さんの進む道に、多くの笑顔があらん事を願っておるぞ」
「お互い伝えたい事はもう伝えあったよな
じゃあな、元気でやれよ!」
「さらばじゃ皆の者、いずれまた会おう!」
フェイタリス達を乗せた船は、海の上を静かに滑り出した。
「ふふふ、さて次はどんな子に会えるかのう」
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