匿名だったもの 2012-05-22 12:22:14 |
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「圏外って……」
つぶやきながら、辺りを見渡す。圏外になるような山の中に来たってことか?
「んんん?」
更に妙なことに気がついた。時計表示がおかしい。おかしいとかいう次元ではない。何故、最初に気づかなかったのか。
日付からなにから全部-になっている。
この現象は知っている。ICチップ抜いた後の携帯がこんな感じになる。
俺は携帯のバッテリを取り出し、チップを確認した。
「あるな……」
次に音楽再生用アプリケーションを立ち上げて、著作権のあるデータを再生する。ICチップが入ってないと再生出来ないからだ。
しばらくすると、最近流行りの女性アイドルグループの曲が流れる。
「ICチップは問題ないか」
だったらなぜ圏外なのか、原因がわからない。現在地すらもわからないのだが。
途方に暮れて溜め息をついた時だった。
葉のがさがさ擦れる音と、何かの気配が近づいてくる。
俺がそちらを凝視していると、人影らしきものが見えた。
その人は、茂みから出ると俺が見つめているのに気づいて、言った。
「気がつかれたのですね!安心しました」
俺はなんて返答したらいいのかわからなかった。
いや、みとれていたのかもしれない。
だいたい俺と同年代だろう女性がこちらを見ている。
背中までありそうな金髪に、大きめの瞳はターコイズのような青。
今までにこんな美女と話たことはない。萎縮してしまうのは当然だ。そもそも、女性とそんなに話をしたことがないのだ。
女性は黙っている俺を見て、更に言葉を紡ぐ。
「大丈夫ですか?お加減が悪いのですか?」
「あっ、いえ……大丈夫です」
手を左右に振りながら、やっとそれだけ言って気がついた。
女性をまじまじ見る。金髪。碧眼。長いまつげ。小さな口。形のいい鼻。尖った耳。
……尖った耳?
頭から、血の気が引いていく気がする。俺は、
「すみません。ここ、どこですか?」
そう聞くのが精一杯だった。
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