匿名だったもの 2012-05-22 12:22:14 |
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「この落ちこぼれ!」
「能無し!」
「やる気があるのか!?無いなら出ていけ!」
ああ、何度言われたかしら。この言葉。
私は、いつも繰り返される罵倒に目眩を覚えながら立ち上がる。
好きで落ちこぼれたのでも、出来ないのでも、やる気がないのでもない。
一生懸命やっているのに、出来ないだけ。
どんなに頑張っても出来ないから、強要されても無理なのよ。
でも、そんな事を言ったらもっと怒られる。叱ってもらったことなんてない。怒られたことしかない。
私は、フラフラと訓練所から出ていく。何人かの嘲笑が聞こえたが気にしない。いつものことだもの。
建物を出て、振り向く。土壁で出来た簡素な建物。屋根は所々ないのは修理しても無駄だからと思われる。頻繁に壊れているから。それでも建物内で訓練するのは、セーブの仕方を学ぶため。
「私には関係ないけどね……」
私は呟くと、校舎とは反対に歩き出した。
授業が終わるまで、どこかで時間を潰すため。校舎に入って、他人に見つかると色々とまずい。
いつものように、訓練所に隣接する林に入っていく。
この林の奥には小さな祠がある。この一帯を守っている神様の御使いが祀られているのだ。
私はそこが好きだった。
祠が見えてくると、いつもと違う事に気がついた。誰かが居る。
今までこの時間に先客が居たことはない。引き返すか思案していると、その人物が祠にもたれ掛かるようにして、倒れているということに気がついた。
私は駆け出していた。
近くに行って、呆然とした。
見たこともない服装で、見たこともない白いものを持っている。
何より驚いたのは、
「髪の毛が黒い……」
私の口から漏れでた言葉は、震えていた。
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