青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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木山:それは、あまり良いことにならないと貘は判断したらしい。でも、それはナイトメアとは関係なく、人間の都合でだけどな。
青葉:どういうこと?
木山:俺の曾祖父であるおばあさんの父親は、その時すでに亡くなっていて、おばあさんの兄が実家を継いでいた。その嫁さんは気の強く自己中心的で、姑である俺の曾祖母とは反りが合わず仲が悪かったんだ。それも酷く悪かった様で、曾祖母は家を出たいと、貘にこぼしていたらしい。
青葉:貘は、おばあさんの実家が世代交代しても家に来ていたんだね。
木山:ああ、来ていた。兄嫁は貘にも冷たい態度を取っていたと聞いてるけど、それは余談だな。さらに、兄嫁は、義理の妹であるおばあさんが家に帰って来ても露骨に嫌な顔をした。だから、おばあさんも実家から足が遠退いてしまっていた。
青葉:なるほど。つまり、両親が突然いなくなったからといって、おばあさんの実家は子供だった伯母さんとお母さん二人を預けるには適さない環境だったわけか。
木山:そう。それに、曾祖母を家から出してあげたいという気持ちが貘にはあったんだろうな。
青葉:でも、伯母さんとお母さんが残るのはリスクがあるよね。ナイトメアが勝ったら、次の狩りの標的は二人なんだろうから。
木山:貘には百パーセントの勝算があったんだと思う。自分だけでは判らないけど、貘全体と単独のナイトメアの戦いという構図を作ってあったからな。
青葉:二人に危険はないと判断した訳か。そして、君の曾祖母を家から出してあげた。
木山:慣れ親しんだ家を離れて、歓迎されない場所に行くよりは、伯母と母にとってもそれが最良だしな。
青葉:他に準備はあったの?
木山:あっただろうけど、しなかった。時間に限りがあって無理だったんだ。何せ、曾祖母に経緯を信じてもらうのも簡単ではないからな。おばあさんは曾祖母宛に、短い手紙と長い手紙を書いた。短い手紙は直ぐに実家に速達で郵送した。内容は、また大変なことが起きたので直ぐに来て欲しいというもの。
青葉:また?
木山:俺の曾祖父がナイトメアに狩られた直ぐ後のことだからな。
青葉:あっ、そうだったね。
木山:で、長い手紙は伯母に託して、曾祖母が家に来たら渡すようにした。内容は、その大変なことが何なのかを説明するもので、ナイトメアと貘のこと。自分は暫く眠り続けること。そして、この家に住んでほしいことと、自分が目覚めるまで二人の娘のことをお願いしたいこと。
青葉:信じてもらえたの?
木山:ああ。実際、それから曾祖母は二人と一緒に山村で暮らし始めたからな。それに伯母の話では、曾祖母は貘のことを元から神秘的な何かではないかと思っていた節があったようだ。きっと直感で貘の正体が人間ではないことを見抜いていたんだろうな。それに、家に住み始めてからは、ナイトメアの結界のせいで家の中に何故か近づけない場所がある妙な状態。手紙を信じる材料はあった。まあ、手紙を信じようと信じまいと、父親を喪い母親もいない状況の、まだ子供の孫娘二人を放ってはおけないだろうけどな。
青葉:確かに。
木山:そうそう。後は、おばあさんを行方不明者と世間ではすることに決めたことがあった。ナイトメアの結界が有る限り、おばあさんが外に出ることは出来ない。いつ結界が解けるかも判らないからそうしたらしい。
青葉:旦那さんを喪ったんだから、何処かに働きに行ったということにしても良かったんじゃない?
木山:閉鎖された山村。何の挨拶もなく、出稼ぎに行ったなんてことにするのは無理だった。大体、おじいさんは亡くなったけど、畑は残っている。それさえあれば、経済的に問題はないから、その理由では不自然なんだ。
青葉:いろいろあるんだね。
木山:そう、いろいろとあるのさ。
さて、いま話しているのは、貘とはどんな奴かということだったよな。
纏まりはないけど、貘とはそんな奴さ。
青葉:読み取れたのは、貘は人と交流を持つことがあり、人の敵にはならない。それは当然だよね。人の悪夢が食料なんだから人がいないと困る。だけど味方とも言えず、本来ならば人の為に何かすることはない。ただ、恩を受けたら律儀に返そうとする。そして、仲間意識は強い。ということかな。
木山:概ね、そんなところだな。
青葉:話を戻そう。君がナイトメアと話をしているところから。
木山:そうだな。
俺が貘を悪魔祓いだと勘違いしていて、そのことをナイトメアが指摘した所からか。
青葉:そうだね。
木山:ナイトメアは、俺の勘違いを薄く笑い、男の正体を貘だと明かした。
あの男は貘よ。
シンプルにそう言った。
俺は、
バクって?
と、何のことか分からずに訊いた。
悪夢を食べる貘よ。知ってるでしょう?それくらい。
そうナイトメアはそう答えた。
俺は、悪夢を食べる貘につては聞いたことがあって、何となくは知っていけど、地下の扉から出てきた男が貘だというのは理解できなかった。だって、男は人間の姿をしていたんだから。それで、俺は思った通りのことをナイトメアに言ったんだ。あれは人間だ、と。
するとナイトメアは、
人間に見えるだけ。あいつは化けているのよ、人間に。それも、人間の中でも不細工な姿でね。元が不細工だと、不細工にしか化けられないのかしらね。
と貘を馬鹿にするような喋り方で言った。
そして、
でも、その不細工な貘にあたしは敗けたのね。そして、あなたはその不細工な貘に守られているのよ。貘がいるから、あたしはあなたを狩れないんだから。
と付け足した。
自嘲するナイトメアの言葉だった。それを聞いて俺は余計なことを口に出してしまった。余計なこととはいえ、本心だけどな。
青葉:何て言ったの?
木山:悪魔祓いに敗けて貘にも敗けて、悪魔って弱いんだね。
と言ったんだ。子供は正直だよな。
青葉:ナイトメアの反応は?
木山:本当のことを言われて、怒り心頭に発した様で、
腹の立つことを軽々と言ってくれるじゃない。あなたが寝るの待って狩りするのは貘が邪魔するから難しいけど、ここであなたを殺すのは簡単なのよ。夢の中での狩りでなければエネルギーにはならないから、あなたの命は無駄になるけど。でも、憂さ晴らしににはなるわ。
そう、怒りからか早口で言った。
青葉:冷静ではなかったわけか。自分で自分を貶めるのは良いけど、人に言われるのは嫌だったんだね。その気持ちは分かる。
木山:プライドを傷つけたんだろうな。
青葉:何とも人間味のある悪魔だよね。
木山:そうなんだよな。でも、悪魔に人間味があるのは当然なんだ。
青葉:どうゆうこと?
木山:悪魔を造った者の特性を引き継いでいるのさ。
青葉:悪魔を造った者?誰?
木山:その話はすぐだ。続けるよ。
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