青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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青葉:自分が魔物の手の内にいることに気づいたんだね。
木山:そう。だけど、ナイトメアに遭遇してからの危険な状況は変わってない。変わったのは俺の精神状態だけ。
だいたい、おばあさんの知り合いなんて、まず有りうる話ではないんだよな。なのに俺は疑いもしなかった。
青葉:というのは?
木山:ナイトメアは十代後半の容姿だった。まあ、魔物なんだから実際の年齢なんて判りはしないけど、俺にはそのくらいに見えた。一方、おばあさんは20年以上前に失踪していた。
ナイトメアは、おばあさんとずっと一緒にいたと言った。つまり、一緒にいたのは失踪後からということになる。普通ならば有りえないだろう。失踪中のおばあさんとずっと一緒にいた人が、おばあさんの家の近くを歩いていた。そして、偶然に山の中で孫の俺と出会ったなんて。
青葉:確かにそうだけど、それは現実だった。ナイトメアは嘘を言っていないよね。確率的にはほとんど無いとは思うけど。
木山:そう事実だよ。でも、普通に考えて確率的にほとんどないことを疑いもしなかった。それどころか、その時の俺にとっては、おばあさんとナイトメアが知り合いの確率はゼロパーセントと考えなくちゃダメだったんだ。
青葉:何故?
木山:俺は、おばあさんが伯母や母が子供の頃の20年以上前に亡くなった、と聞いていたんだ。
つまり、ナイトメアは……その時は名乗る前で、まだナイトメアとは思ってなかったけど……十代後半の女性が、おばあさんと出会えるはずがない、知り合いのはずがない、そう考えて警戒しなければならなかった。
青葉:男をナイトメアと思い家から飛び出し、その後に謎の白人女性に声を掛けられたんだから、冷静ではなかったんだよ。小学生では仕方ないと思うよ。
木山:男をナイトメアと早合点したり、ナイトメアを疑うことなく呑気に名前を訊いたり。自分のことながら浅はかで情けなくなるよ。 冷静さが足りない。
でも、確かに、今さら自分に腹立ててもな。
とにかく、相手がナイトメアと判り、俺は狼狽した。家で男を見た時以上の恐怖だったよ。
逃げよう。
そう思った。
狼狽しながらも、相手に変に思われないように、自然に行動して離れて行こうと考えた。
青葉:自然にとは?
木山:用があるから、と言って別れの挨拶をして、ある程度の距離を取ってから全力で逃げる。そんな感じだったかな。
青葉:けっこう冷静だと思うよ。きっと、大人も似た感じで逃げようと思考するはず。
それで、上手くいったの?
木山:いいや、ダメだった。
家に用事があるので帰る。そんなふうにナイトメアに言った。
が、震えているような、裏返っているような、さっそく不自然な声を出してしまったんだ。表情も強ばっていただろうな。
立ち上り、来た道の方へ歩き出そうとしたその時、ナイトメアは俺よりも早くに立ち上がっていて、俺が一歩目を踏み出す前に正面に立っていた。
青葉:意図がバレたの?
木山:俺が恐れていることは気づいただろうな。挙動不審だったから。
俺は顔の強ばりを更に強めてナイトメアの顔を見た。すると、表情が変わっていた。僅かにだけど笑っていたんだ。
そして、俺は胸を軽く押された。後方へ重心が傾き、小さな岩にもう一度腰を下ろすことになった。
逃げられない。
そう思い、死の予感がした。
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