青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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青葉:怖かった?
木山:俺は、男をナイトメアと思っていたから、恐怖は感じなかったよ。
青葉:でも、山の中に白人の女性がいるなんて、何か怖い気がするけど。無表情ならなおさら。
木山:そのとき俺は、家で男と遭遇し、ナイトメアだと思い逃げてきたばかりだっただろう。ナイトメア以外と遭うなら怖さなんてなかったっさ。
まあ、そいつが本物のナイトメアだったけど。
青葉:それで、どうなったの?
木山:ナイトメアは俺の目の前に立った。
俺はまたもや、どう行動していいのか解らず、岩に座ったまま何も言わずに目の前に立つナイトメアの無表情な顔を見上げていたよ。ナイトメアも、無言で俺の顔を見ていた。
青葉:どっちが先に沈黙を破ったの?
木山:口を先に開いたのはナイトメアだった。
ナイトメアが俺に向けた最初の言葉は、
あなた、あの人の血をひいているのね。似てるもの、いろんなことが。
だった。
青葉:ナイトメアは日本語を話したの?
木山:流暢なもんだったよ。それに、心地よい綺麗な声をしていた。あの声は人の心を掴む一つの武器になってる気がする。
青葉:白人が流暢な日本語で話し掛けてくるなんて変だと思わなかった?
木山:思ったさ。話し掛けられる前から、とっくに。山の中で汚れた服を着た外人が近づいてきたら変だと思うだろう。相手が女性ということもあってか、怖さは感じなかった。けどな、不思議な感じはあったと思う。
青葉:ナイトメアは日本語を話すんだね。
木山:狩りの対象になった人間に、死ぬことを承諾させてしまう能力をもった魔物なんだ。相手に合わせて何語でも話すんだろう。そうでなければ、命という究極の説得なんて出来やしない。ナイトメアは人間じゃない。魔物なんだから、人間の常識に当てはまらない事がいろいろと出来るんだろうな。
青葉:そんなものかねぇ。
木山:言葉を掛けられたが、何と返事すればいいのか解らなかった。
それに、「あの人」とは、どの人のことかも解らなかった。
小学生だった俺は、ナイトメアに無遠慮に見つめられ、気恥ずかしさを感じて視線を落とした。
ナイトメアの土色の汚れがある白いブラウスに、同じく土色の汚れがある白いスカート、それに長い髪が視界に入った。おかしなことに、ナイトメアの服は汚れていたが、顔や腕など肌が出ているところは汚れなく綺麗なことに、その時気づいた。
青葉:気恥ずかしさを感じてたんだから、本当に恐怖心、それに警戒心とは無縁の心理状態だね。
でも、気づいてないとはいえナイトメアと対峙か。ピンチだよね。
木山:そうだけど、その時点では全く危機感はなかったな。相手の正体が分かってないから暢気なもんさ。
青葉:「あの人」とは、君のおばあさんのことだね。
木山:結論から言うとそうだった。
俺は小さな岩に座っていたけど、よく見ると、 同じような岩が周辺に幾つもあった。突然、ナイトメアは直ぐそばの小さい岩にフワリと座ったんだ。ナイトメアは俺の視線の真正面にいたが、座った向きは俺に対して正面ではなく、俺はナイトメアの横顔を見るかたちになった。そして、ナイトメアは、こちらを見ることなく黙って山の木々を眺めているようだった。しばらく、そうしていた。
青葉:つまり、君はナイトメアを見ていたけど、ナイトメアは君を見なかったんだね。ナイトメアは、君にあまり関心がなさそうだね。
木山:その時の態度からすると、そうだったのかもしれない。でも、その時の俺はナイトメアが怒っているのじゃないかと考えたんだ。声を掛けたのに俺が何も答えなかったもんだから。この気まずい雰囲気を打破するのは、この雰囲気を作った自分がやらなければならないと思った。
青葉:どうしたの?
木山:今度は俺から話し掛けることにした。
さっき言った、「あの人」って誰?
他の言葉掛けをする選択肢もあったと思うが、そう質問を俺はした。
すると、ナイトメアは無表情の顔だけを俺に向けて、
あの人の夢に、あなたは一度も出てこなかった。ということは、あの人とあなたは会ったことがないのね。でも、同じものをたくさん持ってる。とても近い存在なのね。
と言った。
俺は困った。話し掛けたものの、ナイトメアの言ってることが解らず、何か言おうと思いながら、次の言葉掛けが浮かばない。結局は沈黙したまま時間が流れた。
でも、ナイトメアは何かを考えているようで、無表情ながら眼差しを俺から離さなかった。そして、
どれくらい時間が経ったのかしら。
きっと、あの人の二人の娘のどちらかの子ね。容姿だけでなく、似ていることが多いもの。
と独り言のように言っていた。
青葉:容姿だけでなく、他に何が似ていたの?
木山:さあ、そこは訊かなかったな。まあ、ナイトメアには解る何かがあるんだろう。
そして、ナイトメアは、今度は独り言のようにではなく、明確に俺に向けて言った。
あたしはね、あなたのお祖母様をよく知っているの。ずっと一緒にいたから。
それを聞いて俺は、
ああ、おばあさんの知りいか
と単純に思い、目出度くも親しみを感じた。俺のおじいさんの命を奪った相手なのにな。
そして俺は無邪気に名前を訊いた。
するとナイトメアは、
誰かに正式に名前をつけてもらったことがないの。でも、あたしと同じような存在達は……あなた方の言葉では、同族とでも言うのかしら。とにかく、あたし達は、あなた方人間から、ナイトメアと呼ばれているわ。
と答えた。
俺の背筋が凍った。
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