青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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木山:その事件とは……事件が起きたのは数十年前。俺がこの話を聞いた時は伯母は広い家で独りで住んでいたけど、事件が起きた当時の伯母は両親と幼い妹と一緒に暮らしていたんだ。
青葉:君のお爺さんとお婆さん、そしてお母さんだね。
木山:そういうこと。
事件は家族四人の住む山村の中で起きたんだ。
青葉:山村の中での事件。何だか怖いね。
木山:ことの始まりは山中に鐘の音が前触れもなく鳴り響いたことだった、と伯母は言い、もう二度とあの鐘の音を聞きたくないと話した。
青葉:前触れのない鐘の音?
木山:すぐさま俺は口を挟んだ。
鐘のなんて毎日、朝と夕には鳴る。今日の朝も聞こえたし、夕方になればまた聞こえる、とね。
その山には寺があって朝と夕方には必ず鐘をついていたから、前触れも何もないと思った。
だけど、伯母は首を横に振って山寺の鐘ではなく西洋の鐘の音だ、と言ったんだ。
青葉:西洋の……
木山:寺の鐘はゴーンと低く鳴り一回一回の間隔が長いだろう。だけど、伯母の言う、ことの始まりになった音とは西洋の鐘の音だったらしい。分かるだろう?連続してカランカランと甲高く鳴る。つまり俗に言う教会の鐘の音だよ。
青葉:どんな音かは想像できるよ。それより珍しいね。山中に鳴り響くほどの大きな鐘がある教会があるなんて。
木山:ないさ。無いのに教会の鐘の音が山村に鳴り響いたんだ。
青葉:どういうこと?
木山:だからあり得ない事が起きたんだよ。有りもしない教会の鐘の音が山中に聞こえたんだ。前触れもなく。
青葉:誰かが鐘を山に持ち込んで鳴らしたの?
木山:いや、そういうことではなかったらしい。と言うか、そうではないと山村の人達は結論づけた。音は山村の人達みんなが聞いていた。聞き慣れない鐘の音を聞き、いったい誰が何のためにやったのか騒ぎになったけど誰にも分からなかった。山の人ではないなら外部の何者かの仕業かということになり、駐在や若い衆が調べてみたけど何の手掛かりもなかったんだ。
みんな不思議がり、そして恐怖を感じたらしい。
青葉:そうだろうね。山中に響くような大音量の鐘の音が聞こえたのに、鐘も鐘を鳴らした人もいないなんて。
木山:だけど本当の恐怖は鐘が鳴った後からのことだったんだ。
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