とりとめない思考

とりとめない思考

青葉  2012-01-06 22:03:27 
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考えがとりとめなく浮かんでしまう。

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  • No.2796 by 青葉  2013-10-06 21:50:11 

「生きているよ。間違いない。」
本当は僕が誰かに言ってほしい言葉を菜奈緒に言う。
菜奈緒の顔が少し明るくなる。色々な思いがあったのだろう。
これで菜奈緒が安心して明日まで待ってくれるならば僕の嘘も悪いことではない。菜奈緒を危険に晒す確率を減らせる。
「本当に?」
「もちろん。でも雪見には自由がない。それは雪見の家に行けば解る。雪見の家に行っても雪見には会えない。何時なんどきに行っても会えない。何故なら雪見は家に帰れないからね。帰れない代わりに雪見は家では遺影になっている。」
「何でそんなことに?雪見に何が起きてるの?」
菜奈緒が話に興味を示している。今日は帰ることを説得できそうな雰囲気だ。
「そこが解らない。でもこれからそれを調べに行く。その人とね。」
僕は日和を指差した。そして日和の顔色を伺う。日和の表情は動かなかった。
話を続ける。
「調べようとしていることは、確実に探られたくないことだと思う誰かがいることなんだ。だからその誰かに警戒心を与えないためにも佐野さんは大人しくしててほしい。その方が調べものは成功する。僕達はもう行かなくちゃ。」
菜奈緒は日和をちょっと見て視線を僕に戻す。
「そう。それでその人とこんな時間に待ち合わせしてたのね。解った。明日まで待ってる。雪見に何が起きてるのか知りたい。」
菜奈緒はそう言ってくれたが、念を押す。
「明日僕と会うまで大人しくしててくれる?」
「亡くなった雪見が学校に来たのがおかしいのじゃなくて、亡くなってない雪見が亡くなったことになっていたことがおかしいのね。」
「そうだよ。」
「あと、亡くなったと思ってる雪見が学校に来たのに、誰も疑問に思ってないことも。」
「そうだね。その通り。」
「明日まで待てばそれらが何故か解る?」
「そのことを僕達はこれから解き明かしに行くんだ。失敗するつもりはないよ。」
「ならば、明日まで待つ。明日必ず解ったことを教えてね。」
菜奈緒は明日までは待ってくれるようだ。
「ありがとう。」
ついお礼が口に出てしまう。
「じゃあ一色君、明日ね。」
菜奈緒は、そう言うと駅に向かって走っていった。
自分がおかしくなったのではないかという恐怖から解放された菜奈緒は心なしか会った時より明るい表情をしているように見えた。
「それで一色君、あたしはこれから一緒に何処に行けばいいの?」
菜奈緒が遠ざかるのを待ってから日和が口を開いた。
「どこにも。さっきの話は嘘ですから。」
「なんだ、そうなの。何でそんな嘘を?」
「そうしないと佐野さんが危険なんじゃないかと思いまして。佐野さんは学校で起きていることに気づいてます。」
「そうみたいね。気づいてしまえば黒幕がどう動くか分からないからね。でも、雪見さんのことを気づく人なんていないかと思ってた。考えが甘かったか。佐野さんは雪見さんとは仲が良かったもんね。」
僕は頷く。
「一色君。今日は切り抜けたみたいだけど明日はどうするの?佐野さんには何かしら納得してもらえる話を用意しないと。」
「そこが頭の痛いところです。どうすればいいと思いますか?」
「そんなの解らない。自分でまいた種でしょう。自分で考えてよ。」
日和に相談しようとして、明日まで時間を稼いだのに冷たい反応をされた。
「日和さんは、もう犠牲者を出したくないんですよね?佐野さんは危険な立場です。協力して下さい。」
「確かにね。危険な状況に佐野さんはなってる。でも、だからといって、あからさまにあたしを巻き込まなくてもいいんじゃない?雪見さんのことを探りに行くのに、あたしまで一緒に行くなんて嘘は蛇足じゃない?別に一人でいくことにして、相談だけあたしにしてくれればいいのに。」
日和は僕をなじる。
「済みません。でも一人で行くというより二人で行くという方が真実味があるんじゃないかと思ったんです。」
実際あの時そう思った。
「まあ、何処に行くのかさえ聞かず納得して去って行ったんだから、効果があったのかもしれないけど。でも、よくも巻き込んでくれたわね!という反感はあるわ。一色君、ひとつ貸しね。」
その日和の言葉は意味をなさない。僕はそう思った。これまでも感じたことがあったので確信したが、日和は無意味な会話を楽しむ傾向があるようだ。
「巻き込んでませんよ。日和さんは誰からも巻き込まれない。」
菜奈緒は日和のことなど歯牙にもかけていない。何の印象もないだろう。いや、ないと断言できる。日和はそんな能力だ。
日和は首をすくめる。
「さて、佐野さんのことは後にしよう。一色君、先ずあたしが訊きたいのは結果よ。佐野さんとの話を聞いていればだいたい解るけど、雪見さんの家はどうだった?」
日和とっての興味は一番にそこだろう。
「雪見は家には帰ってこないでしょう。遺影になってました。間違いなく爆死したということになってから一度も帰ってません。」
日和は遠慮がちに言う。
「雪見さんには会えなかったということね。つまりは雪見さんの生死は定かではない。学校に来た雪見さんが偽物である可能性は残ったわね。」
僕は頷き、
「そして、生きているならば雪見が黒幕という可能性も、ですね。」
そう日和に言われる前に言ってしまう。その方が僕は日和に不快感を覚えない。それに雪見に会えなかったからには僕は日和の考えを覆す材料がない。言われて仕方ない。
「ありがとう、一色君。貴重な情報くれて。」
日和は笑顔を見せた。
「何がありがたいのか解りません。雪見には会えず何も解りませんでした。進展はありません。」
雪見に会い全てを解き明かすつもりだった僕には、日和の笑顔が辛かった。
「雪見さんが家には帰らないことが判った。今までも帰ってないことが判った。雪見さんは今日学校に来ているのに家では遺影なのが判った。進展よ。」
日和は真面目な顔でそう言った。
「進展……。そうですか?」
「雪見さんが生きているならば、いま学校内にいる。これは間違いない。一色君、嘘から出た実じゃないけど、これから雪見さんのことを探りに行こうよ。」
思わぬ提言だった。日和は学校に行く準備が出来ているのだろうか。非常に疑問だ。
「これからですか?」
聞き返すと、
「そう言ってるじゃない。」
と軽い口調で返ってきた。
「そうですか……。」
やはり準備は何もしてないだろうと判断する。
僕の言い様を日和は拒否と考えたのだろう。
「行けないの?優等生の優君は家に帰りたい?早く帰らないとママに怒られちゃう?」
腹立たしくなる口調で僕を茶化す。だが、それなら僕も言いたいことが言える。
「日和さんは学校に行ったら使いものになりません。本来の目的を忘れてしまいますからね。雪見のことを探りに行くと言いましたけど、きっと日和さんは学校に行けば雪見のことを忘れて、僕を強力なゼロと疑い僕に探りを入れるでしょう。本末転倒。これから一緒に行ったところで足手まといです。」
売られた喧嘩を買った。
「一色君。よくそんな尤もで的確で返す言葉もないことを言えるね。優しさが感じられない。正直言って傷つけられた。来世もモテないのは決定ね。」
自分から挑発的な言葉を投げ掛けておきながら、どうして僕を責められるのだろうかと感心した。
「馬鹿にした言葉を吐いたのは日和さんからでしょう。よく僕を非難できますね。よほど神経が図太くないと、なかなか自分をそこまで棚に上げられませんよ。」
「馬鹿になんかしてないわよ。一緒に行ってほしいと遠回しに頼んでるだけじゃない。そんなこと言わないと理解できないの?本当に一色君は女心が解らないのね。」
「そんなのが遠回しながらも女心ならば、僕は確かに来世も女心が解らずにモテないでしょう。でも、あれは普通おちょくられた捉えますよ。屈折した人でなければ女心は解らないという話を日和さんはしていると思います。」
「屈折した性格のくせに……。」
日和は勢いを失い、ポツリと言った。
「つまり日和さんの評価は間違っていたんですよ。僕は真っ直ぐなんです。それに、僕が屈折した性格ならば日和さんの話は破綻してるじゃないですか。だって……」
「うるさい!」
日和は僕の話を怒声で遮る。
「男のくせにゴチャゴチャ言い返さないで!」
男は女との言い争いに全て敗北しろと言っているのだろうか。
しかし、日和が怒声で応じたということは、僕は日和に勝利したということだ。
「すみません。」
僕は勝者として心に余裕を持って謝った。
日和は僕の謝罪を聞いて苦々しい顔をするが、このまま舌戦を続けても意味がないことを日和は感じたのだろう。
「一色君、あたし達はまだ決別はしなくていいんでしょう?」
そう訊いてきた。
そういえば雪見の家に行く前にそんな話をした。
「雪見は黒幕だと思いますか?」
問題はそこだ。
「相手は強力なゼロよ。どんな真実があるのかなんて想像では解りはしない。雪見さんが黒幕という、その可能性はあるけど違っても全く驚かない。確信なんてないわ。だからこそ少しでも真実に近づけるように、これから学校に行ってみようと誘ってるのよ。」
「学校に行ってしまえば日和さんは目的を失い何をすればいいか解らなくなります。そして僕を警戒するだけでしょう。」
そこの対処を準備しているのならば、学校に行くことに異論はない。
日和は哀しそうな、悔しそうな顔をして、
「一緒にいくけど、あたしは確かに足手まといになるかもしれない。行っても高い確率で一色君頼みになるでしょうね。それでも行かないと。」
そう言った。
「何故です?どうして足手まといになっても行こうと思うんですか?」
日和は人頼みで動くタイプではない。
「一色君には本当に申し訳ないと思うけど、もう、あまり猶予はないんじゃないかと思ったのよ。」
「何で僕に申し訳ないと思うんです?それに猶予とは何のですか?」
「ゼロの能力によって、誰かが大ケガをする。または命を落とす。新たにそんなことが起こるのに猶予はないと思うの。既に佐野さんは精神的苦痛を感じている。それは心のケガと言って過言はないでしょう。猶予なんて言葉も当てはまらないのかも。それくらい事態は逼迫してるんじゃないかしら。」
「僕に申し訳ないという気持ちは何でですか?」
「本来はあたし一人がリスクを追わなければならない。そのはずなのに学校内でのあたしは無力。一色君が半端でない危機に陥る可能性を感じながらも一色君を頼るしなかない。背に腹は代えられない。でも、そんな勝手なことを頼むことを申し訳なく思うのよ。」
日和はうつむき加減になっていた。日和は僕を犠牲にするとしても事態の収拾の可能性を一番に優先する決断をしたのだろう。
「それだけ逼迫してると思う要因はなんですか?」
急に敵地である学校に人気のない夜に乗り込む決断をした理由を知りたい。
「今まで姿をみせなかった雪見さんが現れたでしょう。黒幕が誰であれ、黒幕は事を大きく動かし出したんだと思うわ。そして、今日一日で状況は悪い方へ進んでいる。雪見さんが現れたのに誰も不思議に思わない。それに気づいてしまった佐野さんという存在。そして事を起こしているゼロの能力範囲が学校に留まらず拡張していること。それらのことから、もう座して待つことはできないという結論に達したのよ。」
そう日和は返答した。
「別に日和さんは座して待っていったわけじゃないでしょう?日和さんには仲間がいます。その中で日和さんは能力の性質上、斥候の役割を担っていたんだと解釈しています。敵地での情報収集をしっかりしていたじゃないですか。」
「しっかりは出来なかった。黒幕が誰で、どんな能力か分かっていない。」
「日和さんは以前、ゼロの能力を消ことが出来ると言ってました。何ですぐに学校内で事を起こしているゼロの能力を消し去ってしまわないか疑問に思いましたが、ゼロが複数いると複雑だだとか、タイミングがあるとかは言って教えてくれませんでした。」
「そうだったわね。」
「今どういうことなのか教えて下さい。そうすれば僕を危険に晒すことを決めた日和さんの覚悟を受け止めらます。」
「言えば一緒行ってくれるの?」
「いいえ、一緒には行きません。一人で行きます。」

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