青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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日和は僕の後ろから近づいたきた。だから僕は声をかけられるまで気づけなかった。日和は僕のすぐそばまで近づいていた。僕と反対の方向を向いていた菜奈緒の視界には近づく日和が映っていたことだろう。普通なら誰かがここまで近づいてきたら視線が一度はそっちに向くはずだ。だが菜奈緒にはそれがなかった。それも日和ならではだろう。日和の能力は健在だ。己れの存在を他者からの興味の対象にさせない能力。日和もまた僕と違った盾を持っている。いつからそばにいたのか検討もつかない。
「こんばんは。」
日和は菜奈緒に顔を向けて軽く会釈をした。それに対して菜奈緒は一瞥はしたものの、すぐに僕の方を向き、
「ごめんね、一色君。約束があったのね。」
と言った。
日和を無視したのは何も菜奈緒が礼儀を知らないわけではないだろう。そうさせているのは日和だ。
僕はこれから情に訴えて菜奈緒を言いくるめようとしていたが、日和の登場したのでプランを変更することにした。これから言いくるめるための演説を始めようとしている所での日和の参上は出鼻を挫かれたような気持ちになったが、どうせこのまま演説をしても成功する確率は低かっただろう。今はこのタイミングで日和が現れたのは説明を先のばしにする好機だと思う。
菜奈緒が騒ぎ出さないようにどう話を持っていくべきか。どこまで情報を開示して良いのか。それを日和に相談する時間を稼ぐことができる。それには菜奈緒に帰ってもらわなければならない。
僕のプランは、日和と約束があるので今日は話す時間がない。明日に話すから待ってほしい、と菜奈緒に時間を貰うことだ。もちろん明日までは騒ぎ出さないよう約束を取り付けなければならない。そこをどうするかは少し悩むが直ぐに菜奈緒を説得するより簡単に思える。
「そう。約束があるんだ。ごめん。」
まずは僕に時間がないことを菜奈緒に伝える。が、
「大丈夫、待ってるよ。大事な話をしてるみたいだもん。」
日和はそう言って二三歩後ろに下がった。有り難くない言葉だ。
「一色君の知ってることを教えて。時間がないみたいだから簡潔でいいよ。」
菜奈緒が僕をせかす。
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