青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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日和が僕を繋ぎ止める為の芝居かもしれないが、僕は降りるか降りないか迷う。
電車はブレーキがかかり始める。考える時間はあまりない。
「日和さん?」
日和は固まっていて答えない。
「日和さん!?」
僕の存在を日和は感じてない。そう僕は判断した。日和から離れる好機が到来している。
停車し扉が開く。
僕は心を決めた。
発車の音楽が流れる。そして電車の扉が閉まった。
雪見は今どうしているだろうか。もう下校したのだろうか。 それとも新里に誘われて野球部の練習を見学しているのかもしれない。 新里は僕を警戒していた。すぐには雪見を離さないだろう。
だから僕の電車から降りない決断は間違ってなかった。まだ雪見が家に帰るまで時間はある。急ぐことはない。そう自分を納得させる。
近くに乗客がいなくて良かった。いたら日和の様子を訝しく思うだろうから、そうなれば僕も居づらい。
何度かしたが、日和は声かけには反応しない。
正面の窓から流れる風景を僕は見ているしかなかった。
「一色君。」
どのくらい外の風景を眺めていただろうか。僕を呼ぶ日和のハッキリした声が程なくして聞こえた。
僕は日和の方を向く。日和は先に僕の方を見ていた。日和の表情に曇りはない。
「大丈夫ですか?」
表情を見れば大丈夫なのは判っているが敢えてそう訊く。
「ごめんね、一色君。待たせて。脳の状態は朝に一色君と会った時に戻ったわ。」
日和は新里の影響下から抜け出した様だ。
「いえ、謝ることはありません。お陰で新里の能力の範囲が雪見の復活でどこまで拡がったのか解りましたから。」
「そうね……でも……」
日和は何か言いたそうだが、僕は訊きたいことを口に出す。
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