青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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「いいえ。まだです。何でそう思うんですか?」
訊かなけれは良かったかもしれない。読まれた心をさらけ出す質問だったかもしれない。
「あら、図星?一色君の表情が変わったら、あたしから逃げる算段が見つかった時かなと考えてたの。そしてその方法は簡単な行動が一番効果的じゃないかと思ったのよね。それは強制的に物理的に離れること。」
完全に読まれていた。脱帽するしかない。
「参りました。」
僕は認めることを自然と言ってしまう。
「参ってるのはあたしの方よ。防ぐ術が考えられない。失敗したわ。一色君が電車を降りてから姿をあらわせば良かったんだ。」
確かに解っていてもシンプルに走られては 防ぐのが難しいのかもしれない。しかし日和の表情を見ると、すまし顔で困っている感じではない。自分が不利だと発言することも心理戦かと思い日和が怖くなる。心理戦で劣勢なのは僕なのだと思う。
だが、解っていても防ぎ難いのは真実のはずだ。これから日和が何を言おうと僕は次の駅で降りる。その固い決意があれば日和から逃れことができるはずだ。日和は言葉でしか僕を引き留める以外に手立てはないのだ。日和の言葉に丸め込まれずに男女差の勝負に持っていけばいい。
「一色君、お願い。あたしを助けてよ。」
日和もシンプルにそう僕に頼んできた。どう言葉で仕掛けてくるかと構えていたがその程度のことであれば今の僕はかわせる。普段ならば効果的だっただろう。無駄と思っても新里の影響下にある日和に付き合ったと思う。だが今日は雪見と会わなければ気がすまない。
「今の日和さんの状態では僕は何の役にも立てないんです。」
僕は正直に思うことを言った。
「やっぱり冷たいね、一色君は。」
日和は力なく言う。
「明日ならばとことん付き合います。だから今日は解放して下さい。」
雪見と会った後の明日ならば、新里の影響下から逃れるところまで日和と一緒に行っていい。それは僕にとってメリットがあることだし、それに日和を心配する気持ちがある。
「一色君、ゼロを相手にしているからには、明日があたしにあるのか判らないくらいに思ってるのよ。あなたはゼロを相手にすることを甘く考えているんじゃない。」
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