青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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「それで、この学校に赴任することになったのは、やっぱり前の学校の評判が悪かったからだと思ったわ。そうでなければ、あんなに親身にならないもの。先に心配があってこそ手厚くバックアップしてくれてるんだと思った。」
「なるほど。」
「だからね、最初は鬱陶しいと思ってたし、校長先生と話しているとイライラもした。だけど、暫くしたら嫌じゃなくなってたの。校長先生は学校のためではなく、自分の立場のためではなく、一人の人間を心配してくれているんたと気付いたから。真心を感じたのよね。」
一人の人間として原先生が心配になるのは判る気がする。そして、校長は学校のことも心配する気持ちもあったと思う。学校を統べる存在が、一人の教師だけを心配しているだけでは失格だ。一人の教師が全体にどんな影響を与えるかを考えて接したんだと思う。
「それで、どうして能力のことを喋ったんですか?」
「不安だったのよね。不思議な能力を持ったことを、幸運だと素直に喜べない心境って同じ境遇なんだから解るでしょう?ねえ、一色君は能力を持ったことが怖くなったことない?」
あり得ない能力を持ってしまった恐怖。能力の性質からか僕は今まで恐怖を感じたことはなかったが、原先生の様な能力を持つと不安や恐怖を感じるのかもしれない。想像するしかないが、例えば自分が能力を使うことで人の人生を変えてしまう恐怖。または、能力に溺れて自分を見失う恐怖あたりだろうか。
「ええ、まあ。有ることはあります。」
僕は原先生の感じる恐怖の見当をつけて、そう答えた。すると原先生は険しい顔で頷き、
「そうでしょう。怖いわよね。よく小説やマンガにあるじゃない。超能力者が能力を使うことによって、驚く程の早さで脳細胞が死滅するとか、急速に老いていくとか。そんなことが自分の身に起こるかもしれないと思うと眠れない夜もあるわ。」
と言った。
僕はまだアルコールを口にしたことはないが、原先生と僕の思考はシラフと酔っぱらい位の差があるのだろう。さらに校長を本当に信頼していると言っていたが、簡単に裏切れる。僕の味方に簡単になることができる。命の危機を感じているのだから仕方ないとも言えるが、軽い信頼だったのだろうと思えてしまう。
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