青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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「気づいた時には赴任先が変わることが既に決まっていたもの。どうしようもなかった。別に残りたいとも思わなかったしね。でも、能力に気づいてからは居心地が良くなっていった。授業中に騒ぎ出す生徒は片っ端から心を入れ換えさせて真面目に授業を聞かせたし、保護者がクレームを言いに来ても、保護者が頼りない先生と思っているのを、優しい良い先生と思わせた。まあ、それらの気持ちは長く続かないから次の日になれば元通りだけど、その場は確実に凌げるからね。それに生徒は兎も角、保護者は何度も同じように能力を仕掛けられるとクレームを言いに来なくなったのよ。忙しい中で来るのに、毎回いつの間にか丸め込まれていれば面倒になるみたい。この分なら次の学校では上手くやれると思ったわ。まあ、能力を使う時は嫌な思いをしている場面か、あるいは嫌な思いをしないための伏線で使うわけだから、使わないに越したことはないけどね。そして前の学校を去る最後の日は、一杯能力を使ってやったわ。目につく生徒全ての心を掻き乱してやった。」
「掻き乱した?どう心を操作したんですか?」
「すごく慕っている大好きな先生が、保護者の誤った認識による不当な理由で学校を去ると思わせたのよ。皆、先生行かないで!と言いながら泣いていた。わざと人目につく所で能力を使って、その姿を同僚の先生達にも見せてあげたの。こんなに人望があったのかと驚いていたみたい。いつも馬鹿にしてくれてたから、少し溜飲が下がったわ。」
僕に能力を仕掛けた時は、単純に屋上に行こうと思わせただけだったが、「保護者の誤った認識による不当な理由で学校を去ると思わせた」と言っている。けっこう複雑に考えを操作できるようだ。侮れない能力だと思う。が、それ以上に僕は感心したことがある。能力を使って生徒に慕われている自分を造り出し、同僚の先生達に見せつけて悦に入ったことなんて、他人に知られたくないと思うはずだ。 だが、原先生は惜しげもなく、みっともない心の内をさらけ出している。 なかなか出来ることではない。勘違いから原先生は今、僕を恐れピンチを迎えていると考えているが、僕がそんな状況になったら自分を良く見せようとするだろう。自分を良い人間にみせて相手から敵意を削ごうと考える気がする。だが、原先生は自分を飾らずにさらけ出している。
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