黎貴 2011-11-25 19:32:29 |
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おそらく私は、世間一般でシスコンと呼ばれる存在なんだろう。
戦争の絶えない国の森の奥、幾つかある集落の一つで妹と暮らしてきた。
両親は七歳の妹と私を残して狩りに行って獣に喰われたらしい、詳しい事は浸隠しにされている。
まぁ、天涯孤独なわけではなく村の人全員に育ててもらったことになる。
「姉さん、水・・・重い・・・・・・」
「お姉ちゃん、もしくは姉ちゃんと呼びなさい。
・・・・・・しょうがないだろ?子供の仕事なんだから」
「でも自分の誕生日まで運ぶ事ないじゃんか!
・・・・・・ううっ、こんな小さい子にバケツ二つも持たせて・・・!」
「口が達者になったなぁー。・・・・・・私だって誕生日だよ!!」
後ろから思いっきり抱き付きながら言った。
只今日課の水運び中。とうとう一ヶ月前、村の井戸が枯れたのだ。
戦争やってる最中にそんな暢気でいいのか、と思う人がいるかもしれない。
「戦争の絶えない」といってもただ、たまに銃声が少し聞こえるだけで
戦争が本当にあるのかさえはっきりとした情報ではない。ただの軍ヲタが試し撃ちに来ただけかも。
・・・・・・そう思って少しずつ、少しずつ近づく銃声の中皆平穏に暮らしているのだ。
ちなみに、私と妹は生まれた日が一緒なのだ。
今日で私が14歳、妹が13歳。まさに妹は可愛い盛りだ。(毎年言ってる)
「邪魔だって姉さん」
殴られた。
「く・・・水が一杯のバケツで殴るとか・・・・・・。
で、お前は何が欲しいわけ?贈り物?」
「そうだね・・・・・・じゃあ」
タァァァァァァァァァァァァン
「今・・・・・・銃声聞こえなかった?」
「・・・・・・うん・・・・・・もしかして・・・・・・」
今、思い返すと銃声が聞こえ出した所で逃げるべきだったかもしれない。
いや、そうすべきだ。
そうしていたら少なくともこの子だけでも私と逃げれたかもしれないのに。
遠くから一台の車・・・・・・いや、戦車がやってきた。
まだ、ゴマ粒より小さい。逃げられる。
「行くよ。今なら行ける。そこの木の根っこのくぼみに・・・・・・!」
「姉さ・・・・・・」
ぱん
「・・・・・・くっ・・・・・・」
相手はどうやら私達を狙っているらしかった。
逃げるなよ、お前らがいるのは知っている。とでも言うようにライフルかマシンガンか
すぐ脇の地面に打ち込んできた。
「姉さん、どうするの・・・・・・?」
「もう、見つかってる。逃げたら・・・・・・狙い撃ちされて、撃ち殺される」
鉄砲一発で黙らされられた。選択肢がわからなくなって、消えた。
たった少しの火薬と鉛球一つで。・・・・・・たまらなく、悔しいかった。惨めだった。
これだけで未来がわからないこの子が哀れだった。
・・・・・・たまらなく、無力だった。
手に持ったバケツを静かに地面に置く。音をたてただけで撃たれそうな気がして。
いつもクールで可愛かった妹の顔が不安そうに歪んでいる、おそらく私もだろうけど。
しがみついてくる手におもわず守るようにしゃがんで抱きしめていた。
こんなときに、「あ、可愛い」と思ってしまった私はなんなのだろう。
いつも以上に頭がよく回る気がする。
「(頭が真っ白になる方がどれだけ良かったか・・・・・・)」
あの戦車が止まって引き返しはしないだろうか。気まぐれで見逃してくれないか。
中に積んである火薬が爆発しないだろうか。誰か助けてくれないか。
あいつらの仲間が今あいつらに助けを求めてそれに答えてくれないだろうか。
程よく手榴弾かなにか落ちていてそれで撃破できないだろうか。
よくある主人公のように何か力でも目覚めてなんとかできないか。
ただの軍ヲタが狩りをして私達を動物と思い込んでさっきの一発で仕留めたと思い込んでいるだけではないだろうか。
取り留めのないものばかり考える。それでいて頭は冴え渡っているのだから笑える。
ゴマ以下だった戦車は米、大豆、空豆、どんどん近づいてきた。
なにも起こらない。頼む、なにか起きてくれ。
戦車は結構でかかった。見上げなければてっ辺が見えない位。
「おい、小娘二人だぜ?どうする?」
やっぱり、無力だった。
「男だと思ったんだがな・・・・・・んー、残念」
軽そうな男と真面目そうな男の二人組みだった。
どちらも完全武装で逆らえばこの逃げ場もないこの土地ですぐ捕まる。
「まぁ、どっちでもいいって言われてるしな」
軽そうな男が戦車を降りてきて妹と私の腕を掴んだ。
「おっと、その大きい方はいらねぇよ。置いてけ」
「はぁ?もったいねぇだろ、こんな年頃の娘」
「使えねぇよ」
「ちっ・・・・・・真面目だな、お前は」
「行くぞ。悪いな、姉ちゃん」
妹の手が強引に引っ張られる。怯えきった妹は抵抗もできなかった。
「ま・・・・・・・」
このまま連れて行かれてしまうのか。私だけ助かって妹は・・・・・・。
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