匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
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うん? …ここにあるのはガラクタばかりじゃ。お主が割ったのは京で有力だった公家が名のある職人に作らせた壺。乱世の動乱の中で略奪され、流れ流れて我の許へ献上されたものじゃ。お主らからすれば年代物の高価な壺かもしれぬが、我は壺には興味無い。
(さっと後ろに隠された指が気になったが、それよりも派手に割れた壺の方に意識がいった。これを献上してきたのはいけ好かない武士だった。これをやるから我が宿敵の一族郎党を滅ぼせ、と言ってきた。生を司る神社で何を言うかと怒鳴り、その場で妖術を使って強制的に神社から追い出した。壺を大切そうに抱えて恩着せがましく献上してきた様を思い返し、愉快そうに笑う。不謹慎を言うから何百年越しにバチが当たったのだ、ざまあみろ。イナリは心の中で舌を出した)
…料理用の壺はこっちじゃ。これは割るでないぞ。それと…何故指を隠す。
(いつの間にか辺りを見渡す彼女の隣に移動していると、壺の場所を指で指す。薄暗かったので指先に火を灯らせ、明かり代わりにする。壺は台所横の棚に置いてある。少し暗いのと、辺りがゴチャゴチャしているため分かりにくい。なるほど彼女の言う通り、掃除は必要だ。いくらガラクタばかりとはいえ処分も必要だろう。
壺に向けられていた意識はすぐに彼女の指に向いた。隠していた指を掴むと目の前に突き出させる。血が、流れていた。一瞬イナリの動きが止まる。イナリは血が大嫌いだった。血は死の象徴だから。刺され、殴られ、撃たれ、病に侵され。過程は千差万別だったが、この赤い液体を身体から流したものは皆死んだ。人間達が死んでいった。じゃあ彼女も──嫌な記憶が甦り目から光が消えかけたその時、ハッと我に返る。彼女は壺を落とした。その時の破片で切っただけだ。何も夜討ちに遭った訳では無い。第一、こんな指先程度の出血で死ぬものか。自身を落ち着かせるように大きく息を吐くと彼女の指を解放し気まずそうに言う)
…些かガラクタを溜め込み過ぎたな。我が処分しておく。
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