匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
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(雨もすっかり上がり、夜空に輝く星たちを眺めながら、ゆっくりと外観にも視線を動かしつつ周囲を巡ってみる。朝はあの雨のせいで全く周囲へ目を配っていなかったので、今までずっと中に居たのに、初めて訪れたようで不思議な感覚に陥る。
暫くして正面へ戻ってくると、ぴたりと鳥居の前で足を止める。鳥居の先に見える景色はなんら変わりなく見えているはずなのに、何故かこの先へ行ってはいけないという気がしてくる。恐らく結界か何かがあるのだろうかと頭では理解するものの、一歩、また一歩と歩み寄っては鳥居の先に向かって右手を伸ばす。しかし、それもまたすぐにダラりと下ろせば、その場でゆっくり腰を下ろす。
冷たく流れる風に膝を抱えて腕を擦りながら、暫く変わらない体勢のままじーっと鳥居の先の景色を眺めていた。)
──…みんな、大好きよ。
(相変わらずその顔は憂いを帯びていて可愛げのある笑顔とは無縁の表情だったが、それでもその声音は優しさに満ちていた。
この言葉は勿論、あの憎たらしい教え子たちに向けられた本心でもあるし、同じ教壇に立っていた同僚たち、昔の同級生たち、両親、みんなに向けた言葉だった。色々な事があってすっかり心身ともに疲弊してしまって霞んでいたけれど、元々自分は人が好きだった。寂しかったり、辛かったり、悲しかったりと嫌な事ばかりだったし、自分は人に嫌われるタイプだった。しかし、自分に“嫌いな人”は居なかったのだ。
鳥居の向こうへ戻れないと悟り、今更ながらその事に気がつくと、表情は変わらず涙だけがぽろっと流れていく。
袖で流れた涙を静かに拭うと、そのまま立ち上がり、何事も無かったかのように本殿へ戻っていく。)
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