匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
通報 |
ふん。賢明な判断じゃ。大人しくしておれ
(小説を捲り始めた彼女に言葉を掛けると、本殿を出て行く。雨はもう止んでおり、空に掛かっていた分厚い雲も散っていた。本殿のすぐ裏の森を一直線に進むと開けた場所が見えてくる。そこにある露天の温泉がイナリの自作の風呂だった。この辺りに温泉は無いが、張った水をイナリの妖術で温泉へと変異させているのだ。周囲に結界が張っており、イナリや彼が許可した者にしか存在は感知できない。おかげで誰の視線を気にすることなく入浴を楽しめる。着物を脱ぐと変化を解いて、静かに湯に身体を沈める。湯に浸かりながら大きくため息を吐く。イナリは星を見ながら、この解放的な湯に浸かるのが好きだった。ここでは何も考えることなく疲れを癒せる至上の空間。普段なら小一時間と入っているが、今日は病人がいるのであまり長湯はできない。小説を読んでいる途中にパタリ。そんな状況が脳裏を過ぎる。イナリが目を離すと人間はすぐに命を散らす。彼女もそうだったらどうしようか。いっその事、そうなる前に妖にしてしまえば──そこまで考えて首を激しく横に振る。何を考えている。人間を妖にするなんて禁忌中の禁忌だ。自分の中の恐ろしい考えを振り払うと湯から上がり、身体を左右に揺らして水を払う。着物を咥えると本来の姿のまま、本殿に瞬間移動する。着物を置くと、繧繝縁の上に座りぼそっと呟く)
…お主のせいで心休まらんかった。
トピック検索 |